「根拠」にこだわる理由

私が営業から購買へ異動しずっと悩み続けていたコストダウンを要求する「根拠」。今では「根拠」を獲得するためには、手を動かし頭を働かせ悩み抜いて何とかつくり上げるしかない、そう思っています。当時購買に異動した私は、営業時代に出会ってきた理不尽なバイヤーたちの存在が反面教師となり、具体的な対処方法もわからずに悩みを大きく難しくしていたのです。

 

そんな私が一度だけ、自分で嫌悪していた「理不尽なバイヤー」になったことがあります。当時の上司は、サプライヤの見積に対して

「気に食わない」

「オレが気に入る見積をもってこいよ」

と、文字どおり声を大にしていう人でした。当然ながら私は大嫌いでした。そんな人が身近にいたからこそ、より根拠を持って安くする方法論や交渉論を追い求めていたのです。

 

しかしそんな簡単には「根拠」を得られません。今、思い起こせば交渉に先んじて、何の準備もしないに等しい状態。確固たる「根拠」が得られるはずもありません。そんな中で上司は根拠なく強い言葉だけで、コストダウンを獲得していました。私は、一回同じことをやってみようかと思うに至りました。異動したばかりのころ、そうはならないと心に決めていたはずの理不尽なバイヤーになってみようと考えたのです。

 

たまたま上司抜きで価格交渉を行うことになりました。サプライヤは、窓口商社の担当者と上位者を含めて4名。このメンツがそろっているなら価格決定可能です。そんな場でもサプライヤの担当者は「この価格が精一杯です」と繰り返すばかり。目標にはほど遠い金額でした。私は困り果て「困りましたね・・・」と言葉にも出していました。そんな言葉だけでは、私にとっての善処の策は引き出せません。私はあの言葉を使ってみようと心に決めました。

 

「この金額で精一杯というけど、なんか気に食わないんだよね・・・」

 

私が理不尽なバイヤーに一歩足を踏み入れた瞬間です。さぁ結果はどうか。上司と同じようにコストダウンを引き出せるかと思いきや、結果は大きく違っていました。交渉相手の顔は皆そろってあっ気にとられたぽか~んとした顔をしていました。交渉相手の表情を、私なりに言葉に変えると「お前ごときが何いってるの?」でした。本当に忘れたい、私のバイヤー人生でも、間違いなく断トツで寒かった瞬間でした。交渉相手の冷たい視線は、今でも恥ずかしく忘れられない記憶です。私が嫌悪していたバイヤー像に自ら足を踏み入れた瞬間でした。

 

そしてどうすれば根拠を得られるのかで悩んでいた私にもう1つ悩みが加わりました。なぜ上司の「気に食わない」には説得力があって相手に苦渋の決断を促すのかです。「長年の経験と実績」と言ってしまえばそれまで。バイヤーになりたての私が、この道数十年の上司と同じことをやっても通じない現実を痛感し、これまで以上にコストダウンの「根拠」を捜し求める日々が始まったのです。

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