調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 2章(3)-14
二つ目は、デュアル・マルチソース化への取り組みです。これは、バイヤーというより、企業として追求し続けている規模の経済性とはまるで逆行する取り組みとなります。しかし、サプライヤーからの供給が断たれて苦しんだバイヤーにとって喫緊の課題です。そして日本のバイヤーが生き残っていくためには、デュアル・マルチソース化をコストアップせずに実現しなければなりません。この課題は複数の同業者の情報を持っているバイヤーこそが、サプライヤーと一緒に解決できる可能性があるのです。既に、自治体・行政レベルでは、震災時の相互支援の取り組みが行なわれています。兵庫、徳島、鳥取が宮城県を支援する担当県といった具合です。
ここで私が述べているデュアル・マルチソース化とは、「単に複数社から調達すればよい」とする旧来のデュアル・マルチソース化とやや形を異にします。考えなければいけないのは、より緊急時に「使える」デュアル・マルチソース化です。今回の震災で、比較的汎用性のある技術を要する製品は、代替サプライヤーを探すことが容易でした。このことから、震災発生時、企業活動の継続ができなくなった場合にのみ効力を発揮する協力関係の確立は、有効なアイデアです。世界で唯一という製品でなければ、バイヤーが主導もしくは、サプライヤー自身で震災発生時の相互支援ができる企業を探しだすことができるはずです。距離的に近ければ同一顧客での競合の可能性もあります。したがい、地理的には少し離れることが必要です。
また、受注した製品の技術情報の共有は、顧客と締結している機密保持協定にも抵触する可能性もあります。これも、供給継続確保という説明で異を唱えるバイヤーも減るはずです。そして、そういったハードルは、あの忌まわしい津波の被害を思い起こせば、乗り越えられるはずです。災害発生という非常時に限定したアライアンスが実現できれば、顧客への納入責任も果たすこともできます。被災した側の人的リソースをそのまま受入れることで、被災者側としては当面の生活手段の確保が可能であり、受け入れ側では増産にともなう人員確保ができます。これであれば、目的としているコストアップのないデュアル・マルチソース化が実現できます。