調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 2章(2)-3
東京都で働く倉布惇は、震災の騒乱のなか急遽インドネシアで調達困難になる木材を交渉していた。ある企業のセールスマネージャーは「スマトラ沖の地震の時にはインドネシアは日本に助けられた。非常に感謝している。今度は我々が恩返しをする番だ。既存の取引先を優先しているが、非常にオーダーが多くてすべてには答えられていない。頭が痛いのではなく、心が痛い」と言ってくれた。しかし、満足な量を調達できたわけではなかった。直談判でも無理であれば代替品を検討するしかない。
それ以降、倉布は社内を「脅し」てまわった。「在庫はあと1か月分あります。仕様は若干異なりますが代替品はあります。変えなければラインは止まります。変えれば繋がります。さあ、どうしますか?」。返ってくる答えは同じだった。「上と相談する」「営業からラインを止めないでくれと要請がまだ来ていない」「要件に該当しない」。保身とメンツと責任転嫁。危機に直面しているのに、決めるべきことが決められない。判断をすることを避ける。倉布はこの様子を「エアーホッケー」だ、と思った。誰もが受け止めず、判断や決断を誰かに投げてゆく。危機の際にもっとも必要とされていたのは、高尚な事前策ではなく、マニュアルでもなく、高度なシステムでもなく、「俺が責任をとるから、こうしよう」という一言だった。