調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 2章(3)-1

5月も中旬になってくると東京は節電ムードに包まれていた。福島原発の停止。それに伴う電力不足は産業界にインパクトを与えていた。関東を中心として産業界全体として15パーセントの電力削減に取り組まねばならない。そもそも製造業は、他の産業に比して各工場における電力消費がただでさえ大きい。早々に工場を臨時休業するという企業も出てきた。しかし、各社各様のやり方で工場を止めることはできるのか。自動車業界が休業しても、電機業界が休業していなかったとしたら、どちらにも納入しているサプライヤーは休むことができない。ではどうすればよいのか。この目標の前に、各バイヤーは日本全体の方向性が定まらないなかサプライヤーと今後の生産に向けた議論を重ねていた。

このころ坂口は異様な空気を感じていた。会う人会う人が、「政府が産業界を主導して、休業日を決めるべきだ」といった。メディアの解説者も政府・首相のリーダーシップを期待するコメントを発していた。節電といっても、どうしても休めない産業もある。医療などはその筆頭だろう。どの産業を休ませて、どの産業を休ませないか。それは政府が恣意的に決めることになる。まるでそれは社会主義国家の計画経済ではないか。自由ではなく、大きな権力からの拘束を願う心理。エーリッヒ・フロムの描いた『自由からの逃走』そのものだ、と坂口は思った。坂口が話を聞きにまわった包装材メーカーは、「一度電力が止まったら、生産復旧するまでに長時間かかる」と悲痛な叫びをあげていた。ITサーバーを扱う業界も同様だった。

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