調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 2章(1)-7
モノがない。ただし、モノがないからどうしようもありません――、とはいえない。
会議のなか、関西から出席していた伊那雅人が話した。「現在、調達・購買担当者はなんとか生産ラインを止めないように奔走している。しかし、だからといって、海外サプライヤーに代替品を求めてしまうと、これまでの関係性を壊すことにつながる。もっと大きな問題は、自社生産の計画が崩れる可能性があることだ。企業向けのコンポーネンツを生産しているところであれば、その生産数は客先の都合によって変化する。いまは生産するといっても、おって客先も需要数を絞る可能性が高いだろう。そうなれば、せっかく自社の生産を完全に復旧し、サプライヤーから調達品を確保したとしても、無意味なものとなりうる。調達・購買部門にいま一番必要なのは、調達先からなんとしてでも製品を買ってくることではなく、全体を俯瞰したうえで、『やりすぎない』ことではないか」。
現在の生産計画がたとえ実現不可能なものであっても、それに向かうことが調達・購買部門の「美」だと多くの人が信じていた。しかし、積極的に動き過ぎない、という施策もあった。
実際に、5月に入ると、生産計画が崩れサプライヤーに注文のキャンセルを重ねる企業があった。注文書を発行し、サプライヤーに過大なプレッシャーをかけたのはいいものの、その後、やはり要らなくなった、というわけだ。伊那の卓見は、その時点では完全な賛同を得られなかったものの、奇形の真実としてその後、私たちの前に姿を現すことになる。