調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 1章(2)-2

東京の杉並区で勤務していた田代正剛は自社の問題に気づいていた。調達・購買部門は緊急時には安否や生産状況を『確認』することにしていた。ただ、それは『確認できる』ことを暗黙のうちに前提としていた。ただ、現実には確認そのものが困難だった。ただ、もっとも困ったことは、もう一つの前提として『確認した情報が正しい』とされていたことだった。一度確認して終わりではない。確認した情報を覆す「新」情報が次々に押し寄せていた。

大阪で勤務していた笹賀は全サプライヤーに「①社員の被害状況②建物の被害③供給への影響」をメールで確認した。当初は「供給に問題なし」という回答が多かったものの、時間とともに被害状況が更新されていった。「最初は影響がないと思った。ただ、原材料が入るかわからない、輸送できるかわからない、停電で生産できるかわからない」。一度確認した情報が次々と古新聞になっていく。確認したはずの事実は、もう次の瞬間には事実でなくなってゆく。笹賀は朝昼晩の一日三回の確認作業が必要だった。

東京・港区で勤務していた正源司もこの混乱のなかで何を確認したらよいか迷っていた。そもそもサプライヤーに何を聞けば良いのか。ヒアリングシートがなかった。サプライヤーマップもティア構造も把握していないなか、どのように情報を集めるべきか。おそらく、現在進行中の委託業務については期間の延長が必要だろう。ただし、それは被害状況からどうやって判断すべきか。災害状況を確認することにはなっていた。しかし、それは「今」を把握することだけで、「将来」を予想できるものではない。とはいえできることは、その「今」を確認することだ。正源司は主要なサプライヤーに対して「生産拠点の被害状況」「受注済案件の納期遅延や工期遅延の発生状況」調査をお願いした。

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