調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 1章(3)-8

ただ、同時に高野はサプライヤーの協力度に安心もしている。緊急対応で問い合わせした9割ほどのサプライヤーは快く相談に乗ってくれ、しかも値上げ申請もなかった。高野の調達方針はこれまで「公平・公正・オープン」だった。それゆえに、強引な交渉がなかったために、コストをどれだけ抑えられたのかはわからない。ただし、このようなときにサプライヤーとの関係性が生きてくるのか、と思った。想像もできなかった大量の注文には、サプライヤーとの関係性をもってしか対応できなかった。

ただ、そのころ坂口は奇妙な光景を見ていた。近くのスーパーでペットボトルを大量にまとめ買いしていた女性を、周囲が侮蔑したような目で見ていたことだ。たしかに、まとめ買いは自分だけ助かろうとする愚劣な行為かもしれない、と坂口は思った。しかし、考えてみると、その女性は幼子のために必要量の2、3割増しで購入しただけかもしれない。買い占めというレベルではなく、不安に駆られただけだったかもしれない。他者が自由意志に基づいて行った行動を、自分はいかなる正義を振りかざして断罪することができるのだろう、と坂口は考えた。

田中は自社だけまとめ発注することの心苦しさを感じながらも、サプライヤーに対して大量の発注を出している。発注書を出さずに納期確認しても曖昧な回答しか得られなかったのも事実だった。自社だけ他を出しぬいて発注してしまうのはいかがなものかと思った。ただし、自社の生産をつなぐことに使命を感じた末の行動だった。

テレビでは福島原発問題について、チェルノブイリと違う、騒ぐほどではない、問題ないと繰り返し専門家が話していた。

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