調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 1章(3)-7

鮫島はこの日、夕方から東京都内で開催されたビジネスマンたちの勉強会に出席している。海外調達の講師役だった。ほとんど人が集まらないと思っていたところ、欠席者は一人もおらず満員だった。出席者のほとんどは調達・購買関係者で、その多くがサプライチェーン復旧の道半ばだった。鮫島は講師ながら「みなさん、こんなところにやってきて大丈夫ですか」と訊いてみた。一人の出席者は「普段どおりの生活をすることが、経済を停滞させないために必要じゃないですか」といった。その奇妙なバランス感は、たしかに重要だった。

また、このころ世間では買い占めが話題になっていた。それは個人消費者だけではなく、企業においても同様だった。

大阪で働いていた中島英鉄のもとに、このころ商社からアドバイスがあった。プロジェクトで進めていた材料をすぐさま引き取ったほうが良いという。震災後に1次材料問屋に多くの注文や引き合いがあり、日々在庫が減少していたからだ。

それはバイヤー側だけではなく、受注するサプライヤー側も同じだった。中島が付き合っていた問屋内で社員間の取り合いもあったようだ。得意先にどれだけ振り向けられるかを、内外問わず必死になっていた。特に食品の領域では顕著だった。東京のオフィスで働いていた中桐竜也が目にしたのは自社倉庫の混乱だった。中桐の企業では、食品スーパーで販売するPB商品を取り扱っている。出庫が前年比250%になっていた。倉庫はキャパオーバーし、混乱が生じた。ただでさえ、そのとき倉庫内は荷崩れと機器のダメージが深刻だった。さらに倉庫社員が全員出社できておらず、倉庫としての体をなしていなかった。

同様のことは神奈川県で勤務していた高野健も経験していた。高野が取り扱っていた一般消費財の製紙は、あらかじめ10日分の在庫を有していた。しかし、通常の8倍のオーダーが入ったためにシステムがダウンすることになった。在庫回転率をあげるために、最小のシステムと量でまわしていた結果だった。

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