調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 1章(2)-3
そのとき、小松はサプライヤーに冷静な指示を出していた。小松はそれまでサプライヤーの工場に何度も足を運んでいたため、電話でのヒアリングによってすぐさま状況を予想することができた。津波被害による倉庫の状況、そして物流。小松はすぐさま「物流を止めてください」と依頼した。「まず必要なのは、被災した倉庫内で、被災品と良品を分けることです。二日間程度は、その作業をお願いします」。二日はロスするかもしれない。ただ、それによってその後のサプライチェーンに大きな違いが出てくる。実際、この作業によってその後の倉庫内での混乱はなくなった。小松は加えて写真をすぐに送ることを依頼した。社内での説得に使うためだ。震災の影響で物流が少なからず遅延することは避けられない。ただ、納期遵守は調達・購買部門の責務だと、社内は考えるだろう。そのときに写真というモノが説得材料になってゆく。
15日。東京・町田で勤務する外村有理は社内部門と対峙していた。オフィスにつくなり「部品の納期はどうなった」と生産部門から連絡があった。「生産をこれ以上止めるわけにはいかない。自社生産は再開できそうだ」。ゆえに、部品調達だけがネックになるという。外村は「調査中です」としかいえなかった。外村の調達品は半導体が中心で、その多くを商社経由で購入している。したがって、商社に確認することになるものの「状況を教えてください」「状況はわかりません」。こちらが出向いて確認するといっても「来られても困ります。商社なのだから、ここで生産しているわけではありません」。「いつ状況がわかりますか」「それすらもわかりません」。このような押し問答が続いた。電話を切ると、社内部門から納期督促の連絡が鳴り響いていた。