調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 1章(2)-4

自社生産の継続か、サプライヤーの安否優先か。多くのバイヤーはこのような葛藤に苛まれていた。東京・汐留で働いていた野田誠司もその一人だった。東北地方のサプライヤーに安否を確認すると「大変です。生産設備もどうなっているかわからない」と応じられた。そのときに「うちの発注品の納期は」とどうしても切り出せない。「また電話をします」といって、電話を切る。野田は、そのあと納期状況を確認しようと再度電話をした。しかし、サプライヤーがあまりに大変な状況が伝わってくると、どうしても供給がどうなったかを聞くことができない。野田は、数社に電話をしたものの、供給状況をヒアリングすることはついにできなかった。そのあいだも上司と生産管理部門からは矢のような催促がやってくる。「自分はこの仕事に向いていない」と思った瞬間だった。

いっぽうで、戦略的にサプライヤーからの積極的な情報収集を、実行「しなかった」人たちもいた。京都のオフィスで部下たちを指揮していた伊奈雅人は「まずは人命優先」だと語った。それを入り口して、じっくり、じっくり聞いていけば、おのずと供給問題を教えてくれる。それがたとえ遅延していようが、まずは会社としてサプライヤー側の安全こそを第一に考えている姿勢を見せること。「納期が遅延したからといって、無理矢理に催促したり、海外のサプライヤーに供給を求めたりすることは良くない」。現状のサプライヤーの復旧を待ったほうが長期的な関係性を維持できる。

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