調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 2章(1)-16
コラム 冷静と情熱のバイヤー
震災発生の翌日のことです。私の勤務先には既に復興需要として、ある製品の納期確認がありました。問い合わせには、従来設定したリードタイムでは太刀打ちできないほどの短納期が設定されていました。そしていつできるか、でなく可否を問うていたのです。
幸いなことに、確認依頼を受けた製品製造に必要なサプライヤーは、多くが西日本に位置していました。1社だけ被災地のサプライヤーも含まれていました。しかし大きな被害をまぬがれ、震災発生の二週間後には復旧していました。
震災復興需要として、自社そして各サプライヤーも含め、どうしたら短納期を実現できるかを模索していました。材料在庫のやりくりや、他の案件との工程枠取り調整によって、不可能と思われていた短納期実現が現実味を帯びてきます。こうなると、バイヤーとしても俄然モチベーションが上がります。テレビは依然として厳しい生活を強いられる被災者の様子を伝えています。自分ができる被災者への貢献はまさに目の前の調達品確保だ、と固く信じて調整を続け、ついには御客様要求通りの納入が可能となりました。三月下旬の事です。
そんな出来事から約一ヶ月後、私は短納期を約束してくれたすべてのサプライヤーを訪問しました。目的はお詫びです。震災復興需要として受注したオーダーの実に70%がキャンセルとなったのです。それまでに発生した費用は御客様からいただくことができます。しかし、ほぼすべてのサプライヤーが費用発生ゼロとの回答でした。最短で設定された納期は5月中旬。製造はこれからとのタイミングであった為に、他の案件へ振り向けることで被害も無かったとの事でした。最終顧客の状況を察したサプライヤーの皆さんの回答です。私の訪問目的は費用の発生云々ではありません。短納期実現へ向けて一生懸命動いてくださった皆様へ感謝の気持ちを伝えたかった、それだけだったのです。