調達業務のリスクマネジメント~東日本大震災の教訓 1章(1)-1

ほんとうはいつもの軽い揺れのはずだった。

2011年3月14時46分。浜川桜は栃木のオフィスで緊急地震速報を聞いた。「震度3の揺れです」。機械的な女性の声が響いていた。その瞬間にすぐ先の未来を予測できた人はいなかった。すると、その揺れはおさまるどころか、激しい縦揺れとなって襲ってきた。

「これまずいぞ」。隣の男性社員がつぶやいた。

壁が崩れるのが見えた。キャビネットから書類が落ちてきた。机が波打っているのをはじめて見た。パソコンが一斉に落ちた音がした。もう立っていられなくなった。避難訓練以外で机の下にもぐることがあるなんて思いもしなかった。

電気が消えた。叫び声だけが聞こえた。防火シャッターが動こうとして、ぐにゃりと曲がったアジャスターにからまって閉まらない鈍い音がずっと響いていた。

浜川は揺れがおさまると、机をまたいですぐに外に逃げ出した。財布や貴重品を置いたままにしたことに気づいたのは、ずっとあとになってからのことだ。

坂口孝則は、地下鉄が急停車する激しい揺れに驚いていた。15時47分。東京・赤坂に向かう地下鉄千代田線、電車のなかだ。はじめて、車内で転ぶ人を見た。地下鉄は霞ヶ関駅の直前で急停止した。地震によるものだと、すぐにアナウンスが入った。「地下鉄よりも安全なところはありません」。そこから何度も激しい揺れを感じた。車内じっとするしかない人たちは、あきらめて読みかけの本に目を通していた。車内には不安とぶつけようのない苛立ちが瀰漫していた。

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