調達原論3【12回目一バイヤーのプレゼンテーション・思考方法】
12「バイヤーのプレゼンテーション・思考方法」
話下手なあなたのために
1時間話して相手を喜ばせることができたら商売になる。3時間それができたら、それは本になる。そんな目標を私は常に念頭に置いてきました。
私は、バイヤーのプレゼンテーションを聞くことが多々あります。また、バイヤーの能力向上の観点からコンサルタントたちと話す機会も多くあり、その際に話題になるのが、バイヤーのプレゼンテーションの「マズさ」です。
おそらくバイヤーたちは、サプライヤーからの売り込みのプレゼンを聞き、その際には、いくつかの辛辣な指摘もしているはずです。それなのに、自分たちは上手くプレゼンをすることができない。
このような状況を受けて、私は「赤えんぴつバイヤー」と「黒えんぴつバイヤー」と名づけました。前者は、他人が創った素地に批判=赤えんぴつを被せるだけ。後者は、前者のそのようなあり方に違和感を抱き、自ら新たな調達を創り出す人のことです。プレゼンのできるバイヤーとは、すなわち、「黒えんぴつバイヤー」になることにほかなりません。
概念だけではなく具体論も必要でしょう。私は、人前で話す機会が多く、「話すのが上手ですね」と言われることがあります。ただ、私の分析によれば、「上手い」のではありません。「わかりやすく」説明するだけで、それは大半の人ができていないために、「上手い」とみなされるだけです。
プレゼン能力構築について、バイヤーのために役立つことを要約し、三つあげておきます。これらを半年ほど意識していれば、おそらく飛躍的に能力が向上するはずです。
(1.プレゼンの結論を最初に一言で述べる
(2.その結論に至った理由を「三つ」述べる
(3.言いたいことではなく、「相手が聞きたいこと」を述べる
(1.あなたが言いたいことは、一体何なのか? A社をB社にすることか? それとも癒着関係のままA社を継続使用することか? あるいは、1千万円で価格を決定したいのか、あるいは1円で決定したいのか? それらを述べた後に、(2.「三つ(一つや四つではなく、三つ)」の理由を述べます。心配することはありません。「理由は三つあります」と述べさえすれば、三つ思いつきます。しかも、三つ理由を提示されれば、相手は頷きやすくなる。これは極めて、形式が主体を決定する実存主義的なあり方なのです。
そして、最も大切なのは、最後の(3.です。これまで、言いたいことだけを述べるプレゼンはことごとく失敗してきました。聴衆を寝かさないこと。聴衆が寝ているときには、話題を変更すること。まったく無関係に見える物事同士を結びつけて関心を引くこと。プレゼンとは、どこまでも相手主体の行為であるべきです。
もし余裕があれば、批判がないプレゼンではなく、相手の心に、納得できずつい反論してしまいたくなるような「ひっかかり」を作っておくこと。私の著作について、感情的な批判・非難を投げかける人は、その意味で私の狙い通りであり、まことにありがたい聴衆と言わねばなりません。そしてその批判・非難から、きっとその聴衆の思惟の旅が始まるはずです。
まずはこちらの話を聞いてもらえるかに、プレゼンのほぼ全てはかかっていることを忘れてはいけません。