4章-14 モチベーションゼロの仕事術

【④実践編つづき】

次に、時間設定についてふれたい。というのも、ひとびとが「やる気がない、モチベーションがない」というとき、そもそも時間に余裕があると思い込んでいることが多い。「重要度が高く、しかも緊急度が高い」仕事のときに、ダラダラと時間を使い、「やる気がない、モチベーションがない」というひとはいないだろう。たとえば、緊急の業務命令があり、1時間以内に重要顧客にたいしてレポートを書きあげなければいけないときだ。そのときは、やる気やモチベーションのことなど忘れて、必死で仕事に取りかかっているだろう(おそらく、その状況でも安穏としているひとは、別の問題があると思われるし、きっとこの本を読んではいないだろう)。

そこで重要となるのは、締め切り設定だ。誰だって、3年後にレポートを提出してくれといわれて、すぐに取りかかることはないだろう。長いプロジェクトの際は、中間報告や進捗連絡などを設定することで、たるみを防止する。

 

1.自分の仕事速度を記録する

私は朝、職場に到着すると、一枚の紙を用意する。コピー用紙の裏紙など、なんでもかまわない。そこに、自分しか判別できない字で、その日にやることを記載する。本来は、優先順位をつけて、なすべきことから順に書いていくべきだ。ただ、それは厳密ではない。重要なのは、その仕事の開始時間と、終了時間を書くことだ。

この日は、編集者に送らなければいけなかった書籍のサンプル原稿を書いている(「光文社原稿 8:30~9:45」)。どう書こうかな、と悩んで、書きだした時間を記載するわけではない。私は「やる気やモチベーションは不要」と書いたが、とはいえ、開始しなければいけない時間を記載する。「ほんとうはあの資料を作らなければいけないんだけど」と思うならば、その瞬間を記載する。

ここで注意点は、「時間を記載したら、仕事を開始しなければいけない」と恐怖感にとらわれる必要はないことだ。もし、そうであれば、そもそも時間を記載しないだろう。ぼんやりとメールを眺めたり、ネットサーフィンしたりして、時間が流れていく。仮に、ネットサーフィンしてしまってもいい。重要なのは、まず記録することだ。そうやってハードルをグンと下げる。

ただ、面白いのは、時間を記載すると、そこに書かれた自分の生産性の低さに驚愕してしまうことにある。開始時間を記載すると、そこから時間が流れていくのがイヤでたまらなくなる。すると、やる気やモチベーションにかかわりなく、「仕事を開始しなきゃ」と思いはじめる。

私のメモをご覧いただいてわかるとおり、1分たりとも不断がないわけではない。仕事と仕事のあいだは、メールのチェックや返信や、郵便物の整理などを行なっている。ただ、「そういえば、次のしごとやらなきゃ」と思うタイミングが、次の仕事の開始時間だ。ほとんどのひとが仕事を開始できないのは、「やらなければいけない」のに「やれない」ことにある。

そして、最後にある「KK」というのは、本書のことだ(「KKベストセラーズ)の略)。これは前述の光文社のサンプル原稿と違って、企画が決定した書籍の執筆だった。8533→11338と書いているのは、執筆文字数だ。8533文字(もちろん、区切りの悪いところで前回の執筆を止めている)から、約1時間の執筆時間を使って、11338文字にしている。

(特にこれを読んでいる編集者のみなさまに)誤解いただきたくないのだが、これは文字数の速度を記録したいわけではない。かつて私は速く執筆することにチャレンジしたことはあったものの、速く書いた文章は荒く、論理構成が甘くなった。著者のなかには時間あたり文字数を自慢するひとがおり、たとえば森博嗣さんは時間あたり5000字を書けるとおっしゃっており、内容も面白い。示唆に富んだご著作『科学的とはどういう意味か』は12時間ほどで書きあげたという。ただ、森さんのような例は珍しく、少なくとも私には無理だ。また、速度が速くても内容がなければまったく意味がない。それはサラリーマンの資料作成でも同じだろう。

ここで文字数を書いているのは、あくまで自分の仕事を「見える化」するためのものである。ただただ時間がすぎれば、その文字数はまったく増えずに止まったままだ。文字数という数値・文字に置き換えただけで、仕事を開始したくなる。著者でも、サラリーマンでも、煎じ詰めれば「町工場のオヤジ」だと私は思っている。期限までに納品物を収めなければいけない。そのために、見える化によって締め切り設定を行う。

あるいは、いまではiPhoneなどで、ストップウオッチのアプリがあるし、キッチンタイマーを使ってもいい。時間が流れている、と意識することが重要だ。

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