調達・購買部門が不況に備える方法(牧野直哉)

●なぜ、今「不況」に備える必要があるのか

1月、統計上は戦後最長の景気拡大期間を記録しました。2012年12月から実に74か月、足かけ8年(実質は6年2か月)です。過去、長期にわたる景気拡大期に景気循環を克服したとか、景気循環が消滅したといった論調が登場しました。1960年代のアメリカや、1980年代後半バブル景気の頃の日本です。しかしそういった論調が登場した後、両国ともに長きにわたる不況を経験しています。

景気循環が消滅する考え方は過去否定されました。景気循環は普遍性があると言ってよい現象です。そして何人にも影響を及ぼします。しかし不況による個人や企業への「影響度合い」はコントロールできます。特に戦後最長と呼ばれる景気拡大期にある今こそ、不況の影響を最小化するための取り組みに最適なタイミングです。

昨年来、サプライヤー能力不足の問題があちこちで聞かれます。先日、中四国購買ネットワーク会に参加したときも、出席者から調達品不足に関するコメントがありました。私が現在コンサルティングを行っている企業の現場担当者からも、購入品の入手性が悪化している話が聞かれます。

日本の国内産業は、長期的に生産能力が下落傾向です。したがって数量がプラス方向の変動への対応力が弱体化しています。調達・購買部門には困った話ですね。必要数量が希望通りの納期で確保できない事態です。そして働き方改革による残業規制の影響も出ます。結果的に「不足」がなかなか解消されないのが、昨年来の状況です。

注文しても入手できないとき、企業によってはこんな所要量の算出が行われます。必要数量が10個だとしますね。しかし2個しか納入されなかった。10個注文して2個なら、50個注文すれば10個納入されるだろうといった考え方です。今、この文章を読んで笑った方、「あり得ない」と突き放した方は、極めて正常な意志決定ができているあかしです。ここまで極端でなくとも、希望数量が納入されない事態になると、調達・購買部門や生産管理部門における数量見通しに関する見通しが乱暴に算出されます。この「乱暴さ」の度合いが問題です。

企業ごとに、先々の需要動向を見通す仕組みがあるはずですね。顧客の購入見通しを営業部門が確認して、市場全体の動きをにらみながら、今のタイミングでは2019年度の売上計画が確定しているはずです。もう決まってしまったからと諦めず、決まった数字をそのままサプライヤーへ垂れ流すのでもなく、本来の調達・購買部門の役割を果たす取り組みが必要です。見通し通りに売れるのかどうかを、今回はこれまで以上に厳格に営業部門に確認します。

同時にサプライヤーにも、他の顧客含め受注見通しを確認します。こういった社内外への問い合わせは「前年度並み」といった回答が多いかもしれません。2019年度に売上をプラスと見込んでいる回答はもちろん、「前年並み」との回答にも根拠・理由を厳しめに確認しましょう。本当に売れるのですか、と。

こういった動きは、はた目では少し奇妙に映るかもしれない、そんな危惧を感じる場合もあるでしょう。しかし希望通りに納入されなくても、見通し数量を下回る量しか購入できなくても、結局サプライヤーと社内関連部門の板挟みに遭うのは調達・購買部門なのです。双方の状況を確認し、見通しに適合した「実現可能性」のある計画に必要な情報が得られる唯一の部門。そしてこういった取り組みが、不況が顕在化してしまった場合の準備なのです。

調達・購買部門にとって不況は好ましい面もあります。特に生産能力が長期的に減退傾向で推移している今、買い手や買う量の現象は、調達環境の改善につながります。そして不況による需要減少度合いによっては、自社の事業計画とサプライヤー戦略を見据えた取り組みが欠かせません。全般的に需要が減少している局面では、複数社購買と集中購買の双方にメリットが創出される可能性が高まります。正に不況によって創出された競合環境です。

不況によって創出された競合環境で武器になるのは、確実な数量見通しです。不透明で見通せない環境下で、確実な情報入手ルートを確立しているか。またサプライヤーと社内関連部門の間に立って、真の調整能力を発揮できるか。それは不況といった大きな転換点の前段階かもしれない今こそ確実に構築すべきです。

「不況を武器に」するのに、特別な魔法や変わった取り組みは必要ありません。愚直にも正しい情報を入手して発信できるかどうかです。特に今、企業の休廃業件数が拡大しています。不況が現実になると、更に休廃業件数は拡大するでしょう。サプライヤーの休廃業の可能性は、経営者の年齢と従業員の平均年齢で、可能性の高低は判断できます。やむを得ず需要が減退したとき、休廃業しない可能性の高いサプライヤーへ発注を集中して、納入継続するといった取り組みも必要になってくるかもしれません。そういった転換点に備えた準備は、「前年並み」の言葉の受けいれではないのです。

次回は、具体的な不況の影響で発生する事象と調達・購買部門の関係です。

(つづく)

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい