某雑誌のインタビュー(牧野直哉)
先日、ある雑誌のインタビューを受けました。今回は、インタビューでお話しした内容をお届けします。
質問:仕事で何か問題を起こしたとき、解決できる人とできない人ではどこが違うのか?
回答:
私は、仕事で直面する問題の原因は1つではないと考えています。日常的な業務の中で発生する問題は、いくつかの原因によって構成されているのです。したがって、問題解決に取り組む場合、まずはさまざまな事象を細分化してシンプルに理解します。
細分化する際は、調達購買の仕事であれば、「QCD」や「5W1H」といった基準で、起こっている問題を分解します。たとえば納期遅延問題が発生したとします。バイヤー企業の指定した納期に納入されない場合、バイヤー企業内では「納期遅れ」が顕在化し大騒ぎになります。しかし、サプライヤーの納期を構成するリードタイムは、いくつかの要素が絡み合っています。構成要素によって、実行者、責任者が異なります。どの要素が当初想定したリードタイムを逸脱したのかをまず理解します。その上で、改善すべき対象を明確にした上で、事態の改善の具体的なアクションへとつなげるのです。
調達購買の直面する納期問題では、当初バイヤー企業内ではサプライヤーの問題として顕在化する場合が多くなります。しかし、その原因すべてがサプライヤーにある訳ではありません。たとえば、バイヤー企業側から当初とは異なる条件が提示されて、サプライヤー側でやり直しが発生している場合もあります。そんな状況では、バイヤー企業が、みずから納期が守れない原因を作っているともいえるのです。
こういった場合、一方的にサプライヤーの納期遅延を攻め、サプライヤー側でのみの改善を強いる行為は、問題の解決には逆効果です。サプライヤー側の関係者の中には、納期遅れの原因はバイヤー企業側にあると考えている人が存在するためです。原因を作った側が、原因によって生まれた問題の対処にも責任を持て、との考えによります。バイヤー企業の動きのみによって納期遅れが解消できる場合は、そういった考えで良いかもしれません。しかし、原因と責任が所在していなくても、納期遅れを解消するために、サプライヤーになんらかの対処がなければ、事態の善処が望めない場合もあります。実は、こういったサプライヤーにお願いするケースは、多いはずです。そんなときは、自社の不手際=条件を変更した点をわびた上で、サプライヤーの側には責任はないけれども、リードタイム短縮のお願いをします。このタイミングでは、問題解決の2つの対処を用います。これは、どんな人にも避けるべき「火事」を例に説明します。
たとえば、目の前で火事が起こっている状況を想定します。火を見たら、消化器を探したり、119番に電話したり、その場から逃げて命を守ったりします。これは「状況の打開」にあたります。まず、目の前の問題を解決するのです。火事の場合であれば、まさに緊急避難的な行動が必要です。大きな災害にともなう火事の場合、延焼を防ぐために、発生現場の近くの燃えていない家を壊す場合がありますよね。燃えていない家を壊すなど、平時では許されない犯罪的な行為です。しかし、より大きな被害を防ぐために必要な対処です。生命や財産が失われる可能性をより小さくするために必要なのです。
そして、鎮火させた後は、なぜ火事が起こったのか、その原因を明確にして、抜本的な解決をおこないます。これは、再発防止となり、恒久的な解決です。火事もビジネスでも、基本的な対処に変わりはありません。そして恒久的な対策である再発防止を事前におこなう活動は、リスク分析や危険予知として日常的におこなわれています。一度起こってしまった問題は、再発させてはなりません。そして、予知できる問題は、発生させない管理が必要です。
先ほどの納期遅延問題に戻ります。遅延している状態への対処は、状況の打開であり、緊急避難的な対応です。これは、責任の所在よりも、どのように解決するかがキーです。そして、もともとの納期には間に合わなくても、調整の結果、関係者の合意が得られたら、根源的な部分にメスをいれます。なぜ、納期が遅れたのか。条件変更によって納期に影響がでる点が、なぜ事前に関知されなかったのか。それは、サプライヤーからバイヤー企業に情報としてもたらされていたのかどうなのか。これは、次に同じような問題を起こさないための対処です。
私は仕事上の問題は、ある意味でチャンスと捉えています。調達購買業務では、納期や品質、コストのいずれも、問題なく円滑に納入されなければなりません。しかし、問題の発生がゼロにはなりません。問題を解決できる人とできない人の違いの1つめは、おこった問題を直視するか、目を背けるかの違いです。誰も問題など起こってほしくない気持ちは同じです。また、問題解決は後ろ向き対応でもあります。しかし、何もせずに状況が打開するのかどうか。もし、打開する必要があれば、事象として後ろ向き対応でも、ビジネスパーソンとして問題を直視し、前向きに対処すべきです。前向きに対処して問題解決を導けば、バイヤー企業とサプライヤーの関係者に、みずからの指導力と行動力を示せます。これは、バイヤーとしての信頼感に大きく貢献するのです。
問題を解決できる人とできない人の違いの2つめは、柔軟性です。問題解決は、イレギュラーな対応を強いられます。問題解決には、問題発生の初期段階での取り組みが重要になります。対応姿勢に柔軟性を持っていない場合、より物事が複雑化してしまい、かえって問題解決を難しくするのです。問題が発生した場合は、柔軟に対応の優先度を変更して、問題への対処の優先度を上げる必要があるのです。
(了)