ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
●2-3調達購買部門の役割~社外への窓~
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企業運営は、社外(顧客)に価値を提供し、対価を得て成立します。調達購買部門は社内と社外との重要な接点の1つであり、サプライヤーのアウトプットがバイヤー企業の運営にも大きな影響を与えます。今回は、すこし「当たり前」過ぎる調達購買部門の社外への接点の機能にフォーカスします。
☆営業と同じく、社外の市場に接する仕事
企業は、営業部門を通じて商品やサービスを販売する売り手の立場で市場に接しています。同時に、調達購買部門を通じてサプライヤーから原材料や製品を購入する顧客の立場としても市場に接しています。社内における付加される価値の内容によって、調達購買部門が市場から受ける影響が、企業経営に大きな影響を与えます。
企業経営は外部環境からさまざまな影響を受けています。自社製品を販売する市場が停滞し需要が減れば、企業業績には売り上げ減少、利益減少といった悪影響を与えます。同時に、調達購買部門が接している市場におけるサプライヤーからも、大きな影響を想定して、調達購買部門における業務を進めなければなりません。もっとも典型的な例は、為替レートの変動や、材料価格の値上がりといったコスト要因の変化によって受ける影響です。どんな企業であっても、置かれた環境が同じ状態で続くとの前提ではなく、変化を前提にした取り組みが必要です。
調達購買部門では、仕事を進める上でサプライヤーとの関わりがあります。サプライヤーとは、まさに社外の存在であり、調達環境を構成する大きな要素です。直接サプライヤーと接する機会の多い調達購買部門は、社外の環境の変化を機敏に察知し、みずからの業務へ反映させて変化に積極的に対応しなければならないのです。
☆社外動向の掌握は、重要な調達購買部門の仕事
調達購買部門が接している市場は、世界の政治、経済情勢に応じて変化します。過去の市場状況と比較し、現在の市場がどのような状態なのかを掌握したうえで、さらに、市場が将来的にどのように変化していくかの見通しを持つのも調達購買部門の重要な役割です。
市場の変化には、市場価格として具体的な数値で理解が可能なものもあります。数値の変化には、背景・要因が存在します。それらの中には、すでにセオリーとして確立され、市場にかかわる調達購買部門の担当者には不可欠な知識となっている内容もあります。そのような知識と、現状分析を重ね合わせ将来を見通す試みが必要です。バイヤーが日常的におこなっているサプライヤーとのやりとりの中で、たくさんの有益な情報が調達購買部門にもたらされています。その有益な情報に気づく力、気づいたら、情報の精度を確認する力、そして最終的には社内へ向け情報を発信し、みずから対策を講じる力がバイヤーに今、求められているのです。
☆レピュテーション(reputation)の維持向上
バイヤーとしてサプライヤーに接するのは、勤務先を代表して社外に対応です。バイヤーの対応といえども、サプライヤーからはその対応への評価がイコール企業の評価とされます。近年では、インターネットが広く一般に普及し、企業の評価も情報として広く流通するようになりました。バイヤーの対応が、企業そのものの対応と判断され、インターネットを通じて広く世間に伝えられる可能性が高くなっているのです。
「レピュテーション」をご存じですか。レピュテーション(reputation)とは、日本語で「評判」と訳されます。企業経営に対する影響の大きさがレピュテーションリスクとして近年大きく注目されています。ここでは、企業に対して世間や人々が抱く印象の総体を示す言葉として使われます。日本では「世間に顔向けできない」といった言葉で従来から意識されていました。調達購買部門が市場に接している以上、バイヤーのサプライヤーへの対応が、企業としての評判を決定する要因となる可能性を想定しなければなりません。不祥事によって、企業のレピュテーションが損なわれると、売上や株価の下落の原因となります。逆にレピュテーションの高い企業であれば、サプライヤーとも強固で良好な関係か築けます。サプライヤーとの良好な関係は、自社が有利に物資を購入できるための基礎的条件となります。調達購買部門としてサプライヤーからのレピュテーションを、いかに維持・向上し、信頼を得られるかどうかが、重要な課題なのです。
(つづく)