ほんとうの調達・購買・資材理論「サプライヤ戦略について」(坂口孝則)

私が継続実施している「調達・購買私塾」というイベントがあります。これは私をはじめとする講師陣が、月に一回「教えたいことを教える」という身勝手なイベントですが、大変な人気でずっと続けてきました。

さて、その私塾において某先生がサプライヤ戦略について面白い資料をお見せになりました。ご迷惑が及ぶかもしれないので、あくまで匿名でご紹介しますが、先生いわくサプライヤ戦略を構築する際に、マトリクスが有効だといいます。

今回は、その資料を私なりにアレンジしてご説明したいと思います。ではまずそのマトリクスをご覧ください。環境によっては見づらい可能性がありますので、拡大してご覧いただけますか? 

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ここには1~4象限の番号をふっています。そしてマトリクスなので2つの軸があります。

横軸:自社のサプライヤ依存度が高いか低いか
縦軸:サプライヤの自社依存度が高いか低いか

です。そしてこの区分けによりサプライヤは次のようにカテゴライズされます。

パートナー: お互いの依存度が高く共存共栄を目指す
力負け: コスト削減が難しい。中長期的な複数社購買を狙う
レバレッジ: サプライヤ依存度は高いが自社の依存度は低い。中小企業などが多い
ショッピング: お互いの依存度が低いあるいは市場品や汎用品が多い

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では、それぞれのカテゴライズされたサプライヤとどう接すればよいでしょうか。それを表示したのが上図です。

パートナー: お互いの依存度が高く共存共栄を目指す→懇親会などを通じて目標設定を実施
力負け: コスト削減が難しい。中長期的な複数社購買を狙う→汎用品などを使う/パートナーサプライヤとの競争化
レバレッジ: サプライヤ依存度は高いが自社の依存度は低い。中小企業などが多い→経営難会社には懇談会による課題提示
ショッピング: お互いの依存度が低いあるいは市場品や汎用品が多い→新規サプライヤ参入

がセオリーとなるでしょう。しかし、注目すべきは、パートナーとレバレッジのあいだの矢印ではないかと思います。ここでは「集約で自社のサプライヤ依存度高める。 また逆に揺さぶりをかける」と書いています。つまり、コスト削減の観点からいえば、サプライヤ1社に集約して終わりではありません。むしろ終わりなき運動があることこそがコスト削減につながります。よって、集中と、そして競争を繰り返し、揺さぶることが必要です。私はときに「戦略的癒着」なる単語を使いますが、これも固定化するわけではなく、入れ替えの緊張感が不可欠でしょう。

また、「ものさし査定」とは両社(者)の関係性云々にかかわらず、絶対的な査定値(基準値)をもってサプライヤ価格を適正化していくことです。これについては私がいつも述べているので繰り返しません。

・さらに実際的なサプライヤ戦略

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ここでさらに実際的なサプライヤ戦略について考えてみます。ポイント1とポイント2について(図には上下逆ですが)書いています。

・ポイント1. 全面的競争は難しく、赤字取引先を次々に作るのも得策でないため、一般事例「部分的競争実施」と修正。「発注量管理による価格低減」にわけて考えていく
・ポイント2.懇談会を実施しサプライヤへの発注量管理、ならびに課題提示を行っていく

おそらく、想像では競争実施といっても、全面的に競争を実施することなどできませんよね。そこで、「力負け」サプライヤの箇所も、できるところからの競争実施としています。これは中長期的な戦略が必要です。というのも、力負けサプライヤのものを全面的に引き上げると宣言してしまえば、相手を怒らせて供給に支障が出るかもしれません。そうならないように、段階を踏みます。

これは、同時にパートナーサプライヤとレバレッジサプライヤとのあいだも同様です。

すべての品目を競争するのは難しいでしょう。よって部分的競争とします。可能ならば、初期段階では、サプライヤが赤字にならないレベル(すなわちすべての競争品でどちらかのサプライヤが負けたとしても、そのサプライヤが赤字にならないレベル)が良いでしょう。品目数でいうと全体の3割くらいが対象と考えられます。

そして、次に懇談会の実施です。私は折にふれて懇談会の必要性を訴えています。これは、私が思うに、二つの意味で大切です。一つ目は、もちろん両社の軌を一にするためです。営業戦略と調達戦略をすりあわせることで、QCD目標統一ができたり、また経営上の課題すり合わせができます。

そしてもう一つは、そのサプライヤに支援している姿勢を見せられることです。経営危機のサプライヤにたいしてとくに有効です。どういうことか。つまり、そのサプライヤとの取引を止めるにしても、いきなり止めるのではなく、経営改善を支援しているように(尽力しているように)見せるためにも懇談会が必要です。協力している、悪い意味では形式を残すためです。

下の図は再掲します。

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しかし、このマトリクスで見るとかなりスッキリしますよね。あとは、重要サプライヤを選出して、次リンクのようなサプライヤ戦略書に落とし込めれば部内で共有もできます。

http://www.future-procurement.com/Sstrategy.pdf

今回はマトリクスを使ったサプライヤ戦略の見取り図についてお話しました

<了>

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