バイヤ「超」基本業務(牧野直哉)

第6回目のバイヤ「超」基本業務。前回に続いて見積依頼について考えます。今回は、前回までのテーマであった見積依頼(RFQ/RFP)に必要となる「内容」を学びます。

見積依頼に必要な情報は次の10の項目です。

① 購入仕様(仕様書、図面)
② 購入する量(購入する期間)
③ 希望する納期(リードタイム)
④ 品質条件(保証期間)
⑤ 支払い条件(期日、手段)、特別な要求
⑥ 発注先決定プロセス
⑦ 発注先決定スケジュール
⑧ 見積提出日
⑨ 見積提出に必要な添付物(明細)
⑩ 問い合わせ先

個別に内容をお伝えする前に、なぜこれらの項目が必要なのかを考えてみます。多くのバイヤの悩みの1つに、見積依頼でこういった①~⑩の情報をサプライヤに提示したいけど、なかなか集まらないといった現実があります。事実、私も日々悩んでいます。見積金額は欲しいけど、概略仕様はあれば良い方で、サプライヤからは実際に購入したい内容にはほど遠い標準的な内容での参考見積しかもらえないといった具合です。多くのバイヤが置かれた状況を踏まえると、この10項目がなければ見積依頼ができないと考える、あるいは見積依頼をしないのは、少しナンセンスですね。

上記に掲げた10の項目が明確にできない場合の問題点は、見積金額に「リスク」がさまざまな形で織り込まれる点です。一部でも提示した要求仕様を全く無視したサプライヤの標準仕様だったり、過去の実績をベースにしたバイヤ企業側の要求(するであろう)仕様でも、おおざっぱにどちらに転んでも対処できるコストを織り込んでいたりします。見積金額を入手する段階では、そういったリスクは顕在化しません。しかし、実際に購入する段階までに、そういった不確定さに起因するリスクを明確にしなければなりません。問題の本質は、そういったリスクの存在を見積依頼から、見積入手、最終的な購入決定まで、忘れずにフォローを続けなければならない点です。

当然、担当バイヤへの負担は増します。しかし適正な条件での購入を実現させるためには負うべき負担です。少しでもこういった負担を減らすには、話の冒頭の段階で、いったいどんな内容が不明確なのかを明確にします。そして、不明確な要素をなくす取り組みを、バイヤ主導でおこないます。

まず「不明確な要素の明確化」です。不明確となる可能性の高い要素は限られますね。上記10の項目を分類してみます。

(1)調達購買部門で決定できない項目:①、②、③、④、⑦、⑨
(2)調達購買部門で決定すべき項目:⑤、⑥、⑧、⑩

(3)アイテムごとに異なる項目:①、②、③、⑦、⑧、⑨
(4)サプライヤごとに異なる項目:⑤
(5)共通項目:④、⑥、⑩

上記の(2)(4)(5)に該当する④、⑤、⑥、⑧、⑩、すなわち全体の半分の項目は、調達購買部門/バイヤによって確定できます。したがってまずこの5項目は、調達購買部門で決めてしまいます。④品質条件(保証条件)は、購入したアイテムを顧客へ販売する時の条件との整合性を取るケースがあります。その点に注意すれば、バイヤ企業で標準的に設定された条件を適用します。

それでは、調達購買部門では決められない残り5つの項目への取り組みです。

列挙した順番でなく、ここはスケジュールから考えます。見積依頼をするからには、なんらかの社内的なニーズがあるはずです。それは、コスト的なニーズと同時に、日程的なニーズもあるはずですね。お客様の要求であったり、社内の予算執行期限であったりします。ここで、調達購買部門のバイヤとして持つべき武器となる確認事項は、見積書の作成に必要な時間(日数)です。これまでに何度も見積依頼をおこなっているサプライヤであれば、必要日数の実績によって回答する。あるいは、必要日数を事前に確認しておきます。社内的なニーズによって設定された見積を入手する期限と、サプライヤの見積作業に必要な日数から判断して、まず①購入仕様(仕様書、図面)を完成させなければならない期日が明確になります。

しかし、そういった進め方ではトータルでの所要日数(①の作成に必要な日数と、サプライヤの見積作成所要日数)が、社内的なニーズによる期限を超過する場合も多くなるはずです。当然、社内的にはサプライヤへの見積作業日数を前倒しせよとの要求が出ます。こういった要求は、調達購買部門としてサプライヤと相談するとして、バイヤ企業内で①の作成に必要な時間の短縮も同様に申し入れます。

こういった取り組みは、始めた瞬間がもっとも反発が強くなるでしょう。しかし、社内で必要な時間は聖域として取り扱って短縮はできない、しかしサプライヤには一方的に相手の都合も考えずに見積作成時間の短縮を押しつけるのは、正しいかどうか。もしも、一方的なサプライヤへの短縮要請が不条理であるなら、それは改善へのアクションを起こさなければなりません。重要なポイントは、調達購買部門として常識的な主張をおこなうかどうかです。「常識的」とは、バイヤ企業で見積依頼用の資料を作成するのに時間を要するのと同じく、サプライヤも見積作成には時間を要するとの意味です。双方が同じ立場であるのを確認して、バイヤ企業の顧客の要求により、時間短縮が必要な場合には、双方で短縮を検討しなければならないのです。

続いて、バイヤ企業での見積資料作成に時間を要する理由を作成します。ここでは、そもそも見積資料を作成する要求部門の人的リソースが不足しているといった理由が登場するかもしれません。その場合は、業務の優先順位を変更できないかといったバイヤ企業内部での解決策検討と同時に、前回まで説明したRFPによって、サプライヤから提案をもらってはどうかとの案を調達購買部門から要求部門に提示します。この場合に重要な点は、バイヤとしての案件の「見立て」です。購入要求部門の資料作成が遅れているといっても、まったくなにもない状態ではないはずです。その限られた情報と、サプライヤのリソースを合わせ考え、しっかりとした提案が可能なサプライヤの提案が必要です。もちろん、限定的な情報を元にしていますから、簡単にサプライヤへ丸投げできない場合もあるでしょう。ここでは、見積依頼に必要な資料が完成できない、だから見積依頼ができないし、見積書が入手できないとのつながりを断ち切ります。

「では、こういったサプライヤがいますので、一回現在の情報で打ち合わせしてみませんか」

といった提案で、話を前に進める案の提示を、調達購買部門としておこないます。なお、当然ですが、提案するサプライヤは、バイヤ視点での能力確認をおこない、提案できる可能性が高いサプライヤを選定します。この段階での意志決定が、最終的なサプライヤ選定につながる可能性も高くなります。バイヤとして責任の持てるサプライヤを提案しましょう。

(つづく)

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