指標はこれを見ろ!4(牧野直哉)

今週は、次の指標が発表されます。

 9日(月):4月の国際収支(財務省)
11日(水):5月の企業物価指数(日銀)
4~6月期の法人企業景気予測調査(財務省)

発表されるデータのなかから、今回は「企業物価指数」について資料のポイントをお伝えします。なお、まだ発表前ですので、今回使用するデータはすべて4月分(5月発表)となります。

●企業物価指数

この指標は2002年まで卸売物価指数といわれてきました。現在では、消費者物価指数と並んで、代表的な物価を推し量る指標です。消費者物価指数との違いは、企業間(BtoB)で取引される商品の価格がベースデータとなっており、われわれの日々の仕事の結果を表している指標とも言えます。

企業物価指数は、基本分類指数として3つの指数で構成されています。3つの指数の推移が読み取れるグラフと、代表的な構成要素の数値が表で明記されています。

1.国内企業物価指数(CGPl:Corporate Goods Price Index)

国内市場向の国内生産品の企業間における取引価格が調査対象

2.輸出物価指数

日本から積み出される段階の価格が調査対象

3.輸入物価指数

輸入品が日本に入着する段階の価格が調査対象

毎月発表されるレポートでは、上記以外にも「参考」として、

・需要段階別・用途別指数
・連鎖方式による国内企業物価指数
・各物価指数の時系列データ

が掲載されます。また、この原稿を書く時点での最新データになる5月発表(4月調査)分では、消費税を除く国内企業物価指数が特別掲載されています。

ここまでのご説明でご理解いただけるとおり、調達購買部門における購入価格を根拠に決定される指標です。それでは、この指標はどのように活用すべきでしょうか。

(1)価格トレンドの掌握

この指標は、価格の変動を表しています。したがって、コスト削減に際しても、値上げ対応でも、世の中の一般的なトレンドはどうなっているかを知る上では、もっとも適した指標となります。毎月発表されるレポートには掲載されていませんが、今号の「ほんとうの調達・購買・資材理論」で示した詳細データを参照すれば、自分が購入を担当する製品と同じ、もしくはかなり近い製品のトレンドを入手できます。そういったデータと、自社の購入価格のトレンドを比較します。ポイントは、同じトレンドに満足しない点です。上昇のトレンドでは、いかに抑制するのか、下落のトレンドでは、いかにしてトレンド以上の下落を購入価格に反映させるか。また、為替レートや原材料価格の変動の影響も、この指標には現れますので、マイナス影響の反映を遅らせる、プラス影響は早く反映させるといった、アラート的な役割も可能です。

(2)サプライヤや社内関連部門への調達購買部門の主張の根拠

昨年この有料マガジンでお伝えした「値上げ対応」でもお伝えした内容です。サプライヤからの値上げ要求のサプライヤ社数換算で半分以上は「雰囲気」による便乗値上げの可能性があります。バイヤ企業がサプライヤへ値上げ要求の明確な根拠の提示を求めて、サプライヤからの反応がない、実質的に値上げ要求を取り下げるのは、影響が少なくて、サプライヤ側で吸収できるレベルである証です。ただ、それでも急激な為替変動や、原材料市況の高騰など、マイナス面の影響も考慮しなければならないケースは存在します。

例えば、調達購買部門からサプライヤからの値上げ要求を社内に報告する場合、こういった指標を活用することで、値上げ要求の根拠が明確になります。そもそも為替や原材料費の購入価格に与える影響は、調達購買部門のみならず、全社で対応すべき課題です。具体的には、より影響の少ない材料への切り替えを技術的に検討したり、バイヤ企業のお客様への値上げを検討したりといった対処です。しかし、サプライヤからの値上げ要求だけでは、なかなか社内の関連部門を動かすのは難しいですね。そんな場合に、マーケットの傾向を示すには、この指標は格好の材料を提供してくれます。

(3)品目ごとの調達戦略の基礎資料

今回の「ほんとうの調達・購買・資材理論」でもお伝えしている通り、詳細データの検索では、1980年以降のデータが入手できます(品目による)。1980年以降といえば、1970年代後半のオイルショックから立ち直り、1985年のプラザ合意による円高進行、バブル景気、そしてバブル崩壊にともなう長期不況、ネットバブル、そしてリーマンショックと、いろいろな企業活動に影響をおよぼす出来事がありました。現在の状況では、1997年に消費税を3%から5%にアップさせたとき、何があったのかは参考になる場合もあります。重要な購入品であれば、自社にデータが存在する限りの過去にさかのぼって、その時々の価格への根拠を見いだす取り組みも、今の価格決定にとって重要な参考資料となります。

以下は、私が実際に印刷してノートに挟んでいる指標のグラフです。2005年基準を採用しているのは、自社の購入価格のデータが2005年までなら苦労なく参照できるためです。このグラフも、かなり大枠ですが、サプライヤからの値上げ要求のもらった瞬間に、このグラフを参照して、原材料がわかれば、このグラフ一枚でかなりの仮説が立てられるし、いろいろな質問が浮かびます。

<クリックすると、別画面で表示されます>

「このデータによると、このタイミングで市況が下がっているけど、このときには価格はどうなっていたの?」
といった質問を、値上げ要求に間髪入れずに返せれば、目指すべき「手ごわいバイヤ」に近づけます。

上記に加えて、次のような取り組みも可能です。需要段階別の指数では、原材料費の変動をおよぼす影響が推測できます。また、自社の購入品と自社製品の価格トレンドをクロスチェックして、営業部門へお客様への値上げ要求の検討要請の根拠にしたりしています。

調達購買部門は、購入する財やサービスの価格に責任があります。企業物価指数は、根拠としても活用できるし、価格の推移から仮説構築にも利用できるし、私がもっとも活用しているデータです。データを見て、ダウンロードして加工し、自社の購入データと同じグラフ上に表示していたら、あっという間に数時間は経過してしまいます。皆様にはご理解いただけないかもしれませんが、私にはとってもおもしろいのです。

<企業物価指数、終わり>

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