サプライヤ分析 3(牧野直哉)

前回に続いて、サプライヤ分析を考えます。今回述べるサプライヤ分析は、いわゆるサプライヤのQCD分析だけではない分析の手法をお伝えします。

●情報収集をする

サプライヤを分析するための情報を入手します。といっても、いわゆるQCDにまつわる情報の集め方ではありません。これからおこなっていく分析に必要なネタ、あるいは分析結果の根拠になる情報です。まず、どんな分析をおこなうのかを確認します。

【5つの競争要因分析】
ビジネスパーソンであれば、一度は耳にした経験がある「5つの競争要因分析~5 Force Analysis」です。えっ今更?調達・購買で、と思われる方もおられるかもしれませんね。この分析方法は、業界の競争環境を分析して、自社が市場で優位性を確保するためには、どのような戦略を採用すべきかを導くためにおこないます。どちらかと言えば、企業戦略や、企画/営業部門でおこなう分析ではないかと疑問をもたれたかもしれません。調達・購買部門でサプライヤ分析に「5つの競争要因分析」を活用するためには、少し工夫した活用方法が必要です。

まず、調達・購買視点の分析内容です。5つの競争要因分析~5 Force Analysisを、調達・購買の実務で活用する見方です。

①新規参入業者
通常の5つの競争要因分析~5 Force Analysisでは「新規参入の脅威」を分析します。サプライヤ視点では確かに脅威です。しかし、調達・購買=買い手でサプライヤを分析する場合、サプライヤにとっての脅威が大きいほどに、新規参入が行われる=新しいサプライヤの登場が期待できる市場になります。別の言葉で表現すれば、参入障壁があるのかないのか、ある場合は大きいのか小さいのかを測ります。具体的な確認するポイントは次の内容です。「サプライヤが属する業界は」を主語にして、以下の内容を確認してください。

(1)規模の経済が働いているかどうか
「規模の経済」は、生産数の拡大によってコストが減少する効果です。現在購入している製品がすでに量産効果を十分に享受していると判断するなら、規模の経済が働いている=参入障壁が高いと判断します。調達・購買部門では、業界と自社の2つの視点で確認が必要です。

業界全体で規模の経済が働いている場合は、すでに「業界」に含まれる企業の中からサプライヤを選択します。できればバイヤ企業がフリーハンドで自社に生じるメリットの最大化を目指したサプライヤ選択可能な状態が望ましい姿です。しかし、そういった状態から、サプライヤは脱却を目ざします。続く視点が「自社」です。業界には多くの企業がいるにも関わらず、ある特定の1社に依存している状態で、かつその企業に一定の規模の経済効果が発生し、他の企業では安く生産できないケースがあります。後者の特定の企業と自社の間で生じる「規模の経済」は、すべてがマイナスではありません。発注企業が自社製品販売市場におけるトップ企業で、特定のサプライヤから独占的に自社専用の製品を購入する場合、発注側に大きなアドバンテージが生まれます。グローバルに展開する大手企業は、こういった手法で業界内の特定企業から集中購買をおこないます。バイヤ企業側の販売力を武器に、特定のサプライヤの事業戦略を牛耳るのです。サプライヤは顧客からの失注を、事業からの撤退として受け止めるのです。

日本国内の市場を俯瞰(ふかん)して「規模の経済」を考えると、全体感は市場衰退局面における規模の経済の持久戦といった様相を呈しています。市場全体のパイが減少する局面では、どのサプライヤが生き残り、規模の経済を維持するのかといった側面も非常に重要です。

(2)製品は差別化されているか
サプライヤからの購入品は、機能的な模倣は困難な場合は差別化していると判断できます。差別化はバイヤ企業にとって歓迎できません。しかし、自社の販売市場では、競合他社と比較したときの差別化は、優位性につながります。サプライヤから購入時は、できるだけ差別的優位性がなく、複数のサプライヤが競争する環境を目指し、自社の販売時点では、できるだけ優位性を生む差別化を実現させる。購入時点=企業へ入り口時点では差別化せず、販売時点=企業からの出口時点で差別化を目指す。これは自社に差別化の要因を取り込んでいるか、自社でいかに差別化を図っているかが、優位性の根源である証です。

(3)新規参入に巨額の投資が必要か
新たな事業へ参入する場合に、投資が必要かどうかです。ここでの「投資」とは、設備投資ばかりを指しません。従来とまったく同じ機能を有する製品を、これまでとはまったく異なる業界に納入する場合、新たな業界のルールや仕組みを理解して対応する必要性があります。そういった対応に要するマンパワーを割けるのか、必要な人件費も投資と判断します。

(4)仕入れ先の変更にコストが発生するかどうか

この点も重要なポイントです。調達・購買部門では、サプライヤ変更に要するコストをできるだけ小さくする取り組みが必要です。これはサプライヤに対しても、社内関連部門に対しても、できるだけサプライヤ変更しやすさを維持する働き掛けが必要です。

(5)流通チャネルは確保できるかどうか

ここでは企業間取引を前提にしています。サプライヤと直接取引を前提に話を進めますので、流通チャネルは確保できる前提にします。業界内に複数のサプライヤがいるのに販売できない場合は、前回連載した「シングルソースサプライヤへの対応」の記事をご参照ください。

<つづく>

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