調達業務には、歴史的視座からの戦略が必要である~第一回(坂口孝則)

・調達業務には、歴史的視座からの戦略が必要である

いま「日本製造業が強かった大量生産の時代が終わり、生産が海外にシフトすることで、日本の強みが失われた」といわれます。この論文では、大量生産の時期は歴史上、ほんの一瞬にすぎず、多くの日本企業が強みを誤解していることを書いていきます。また、同時に、これら通説の大半が間違いであり、その間違いを正すことを通じて、これからの調達業務の進むべき道を述べていきます。

多くの企業の調達部門から、「この先、どうすればいいか」「これから、どのようなスキルを身につけるべきか」「グローバル化のなかで今後、私たちが存在感を維持し続ける方法とはなにか」といった質問を受けます。自分たちの将来について自信がないように見えます。これまでは経済が成長していたので、考える必要がなかったのかもしれません。

なかには他のコンサルタントや講師に訊いてみたけれども、あまり腑に落ちる説明を聞けなかった、と正直に教えてくれるひともいます。

ではなぜ私たちは、進むべき、あるいは身につけるべきスキルがわからないのでしょうか。そして、コンサルタントや講師もわからないのでしょうか。

単純です。

私が思うに「調達業務の歴史的背景」を理解していないからです。あるいは、日本という文脈のなかでの「調達業務の歴史的背景」がわからなかったからです。歴史というのは繰り返します。歴史はあくまで昔のことであって、現在になんら答えを導かない、とおっしゃるひともいます。ただし、やはり生きるヒントは、歴史のなかにあるのです。

私は、その歴史的文脈のなかで勝負するためにさまざまなコンテンツを作り続けました。ありがたいことに書籍は27冊を出版し、コンサルティングや講演の仕事もいただいています。それは適当に考え自分が発信したいものを発信したのではありません。戦略的にコンテンツを考え、現代的な意味のある内容を伝えてきたつもりです。

個人が漠然とした発想のみでコンテンツを作り続けることはできません。実際に、私のまわりに調達コンサルタントとして独立したひとも出てきましたが、頓挫する例も散見されます。自分自身のみの思いつきからは、無意味なコンテンツしか出てきません。

今回は、私の考える歴史的視座から、調達業務の意義付けと、そして将来にむけたヒントをお渡ししていきます。それは、コンサルタントや講師ではなく、実務を担うみなさんの刺激となるはずです。

・最古の料理から見るものづくり

日本企業にとってまずは日本ものづくりの変遷を知らねばなりません。そこに日本の強みを見出し、そして、他国にはない特有性から日本の調達がいかなる強みをもっているかも把握しうるからです。

まずは、料理とその皿の話からはじめます。調達を語るにあたって、突然、料理と皿の話に面食らったかもしれません。しかし、思うに、料理を作って、そしてあつらえた皿に盛り合わせることこそ、原始的なものづくりであったはずです。

これは焼き物のなかで有名な有田焼です。これは白に装飾をあしらった磁器です。ここで特徴的なのは、平面的なものづくりであることです。奥行きがなく、べったりとした平面に花木が描かれています。


有田焼ではなくても、ほとんどの焼き物(陶器/磁器)は、この平面を特徴とします。盛り付けも、平面的なもので、そこに奥行きはありません。むしろ、調理の対象物をこちらに引き込み、フラットに配置し、対象物を並列に扱おうとします。

これは食事風景にも表れており、たとえば江戸時代には、奥行きのない部屋で一人ひとりが台を携え料理を置き食するパターンが大半でした。料理の一つひとつも独立しながら、並列である、という構図になっています。

それにたいして、欧米料理では、皿は一品一品が完全に順列付けて出され、さらに動きのあるレイアウトになっています。余白が強調され、そこに盛りつけられる主役がおり、その配列の角度が計算されています。つまり、フラットな日本にたいして、奥行きのある調理物配置になっているのが特徴です。

ソースによって流れとダイナミズムが表現されています。したがって、ソースと、それが彩る食材は同列ではなく、かつ角度も食べる者にたいして、固定場所の着席を要求します。上下の奥行きはあるがゆえに、それを眺める者たちの左右方向への動きは認めていないのです。


欧米での晩餐会などは、奥行きのある場所を前提になされ、それに適した皿と料理がデザインされています。

つまり、世のなかを見る視座や、その結果として生まれてくるモノは、日本と欧米では必然的に異なるのです。日本人が「しょうゆさえあれば何でも食える」というとき、欧米の皿では流れをつくり、あくまで補助の扱いのソースが、並列に扱われていることに気づきます。

こう見ると、日本は昔から、フラット、並列、奥行き無し、のものづくりを意図的か無意識下は別にして進めてきました。たいして、欧米はあえて単純に図式化すれば、多層化、流動的、奥行きあり、のものづくりを志向してきたといえます。

おそらく、世の中の誰も、私のように料理や皿を用いて、調達を考えるはじめの視座として語っているひとはいません。私の考えです。しかし、この日本人の宿痾ともいうべき、フラット、並列、奥行き無し、の文化構造から、現在の状況を読み解く試みが必要だと思うのです。

 <これは連載として続く>

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