24 -TWENTY FOUR-に学ぶ調達・購買組織構築論

24 -TWENTY FOUR-というドラマを御存知ですか。5月にはSeason8も最終回を迎えました。テレビシリーズとしてはSeason8が最後となることも報道されています。

御存知ない方のために、少しドラマの内容について触れたいと思います。

ロサンゼルスのテロ対策ユニット (Counter Terrorist Unit、略称:CTU)という合衆国の架空の機関が舞台です。一時間=一話×24回、テロの危機から合衆国を守る一日24時間が一つのSeasonを構成しています。

基本的に犯罪者を捜査するという点では、日本でいう刑事ドラマの、起こる事件がテロに特化され、七曲署・西部署・湾岸署といった警察でない政府機関が舞台です。刑事ドラマに似てはいますが、その舞台における組織には大きな違いがあります。

CTUでは、日本のこれまでの刑事ドラマでは設定されることが少ない(最近ちらほら見かける)登場人物がいます。分析官と呼ばれるパソコンの前に座った人々です。分析官は基本的に日本の刑事ドラマで登場するような武闘派ではありません。ネット、各地に設置された監視カメラや人工衛星から送られてくる画像データ等、様々なソースから収集した情報から、ありとあらゆるプロファイリングと情報提供を行ないます。プロファイリングに基づいて、現場チーム(主人公を含め完全な武闘派)に所属する主人公が実際の犯人確保を行うのです。初期のシリーズでは、実際の日本の警察の犯罪捜査と同じく2名で現場チームは構成されます。実際の犯人確保の場面においては、必要に応じて現場チームの2名が指揮官となって武装したアタックチームが編成されます。

一方、従来の日本の刑事ドラマでは、全員が現場に出て捜査に当たります。そして同時に全員が分析官でもあります。犯人捜査は足で稼ぐといった言葉とともに、捜査員の聞き込みから事件解決の糸口を見いだします。決まった時間になると捜査本部の置かれた場所に刑事が戻り、情報共有を行います。有名な刑事ドラマが映画化された時、CMで「事件は会議室で起こってるんじゃない、現場で起こってるんだ!」と叫ぶシーンが繰り返しテレビで流れました。この言葉は、製造会社で言われる三現主義とともに、現場を重視する日本の考え方を象徴しています。その映画では、刑事の出払った会議室は、比較的閑散な場として表現されています。しかし、24 -TWENTY FOUR-では、現場チームが出払っていても、オフィスには人が溢れています。そして情報の共有は、ICT技術を駆使して、そのドラマの売り文句である「リアルタイム」に行われるのです。

分析官から現場チーム(主人公)への情報提供は、こんな風に行われます。主人公が、テロリストが潜んでいるとされる建物に潜入します。同時に熱感知が可能な画像データ(衛星から受信)により、どの場所に敵がいるのかという情報を分析官が主人公へ送ります。主人公は手持ちのPDA、携帯電話で情報の提供を受けながら建物の中を進みます。劇中に、出会い頭での銃撃戦は存在しません。あっけないほどに敵が倒されてゆきます。(ドラマの展開的には、そこで何らかの横やりが入り、情報提供が遮断されることで、ストーリーの展開が予断を許さなくなります。)

ここで、強引ですが、24 -TWENTY FOUR-に登場するCTUという組織と、日本の刑事ドラマに登場する組織を、資材部門に置き換えて考えてみます。

多くの日本企業の資材調達部門の組織は、日本の刑事ドラマと同じく全員が現場(サプライヤー)にも行き、同時に分析官でもあるでしょう。これを、CTUと同じく、明確に現場チームと分析官に担当を分けます。

分析官は、後方支援的であり、デスクワーク的な業務を主な任務とします。具体的には、

・ 新聞・雑誌といった既存メディアおよびインターネットの上の次の4項目に関する情報収集
-新規、既存サプライヤー
-モノ・サービスに関する技術・市場動向
-競合メーカー(自社製品および購入品)
-マネジメント理論
・ 収集した情報の分析と、想定された事態への対処方法のシミュレーション
・ シミュレーション結果をベースにした交渉の後方支援

こういった内容を、オフィスの分析官によって収集・処理します。情報収集については、一般的に人が目にする媒体にあるものすべてにできるだけ網をかけて集めます。特別なソースである必要はありません。一人で行う情報収集には限界がありますが、多くの人数を費やすことで、いろいろなソースへのアクセスが可能となるはずです。そして多くの情報を蓄積して分析、そしてプロファイリングを行います。

多量の情報を処理し分析するために、システム構築とその活用は不可欠になります。例えば、新規サプライヤーの採用時や、年度ごとに提示をされる決算データにしても、自社のシステムへ蓄積する。時の経過とともに単年度でなく複数年度に渡るフローベースでの経営分析を、全サプライヤーに対して行うことも可能になります。机上で行えることを想定されるだけ、何でも分析官が事前にやっておくわけです。

そして現場チームです。現場チームは基本的に2名で構成され、基本的に心身的、法律的、会社のルール的に許される限り、現場=サプライヤーでの業務が中心です。いうなれば、可能な限りずっと出張です。そしてICT技術を駆使して、様々なバックアップを自社のオフィスにいる分析官より受けます。サプライヤーへの訪問に際してのアジェンダの事前送付などは分析官があらかじめ行っておきます。現場チームは、訪問の前(移動中等の時間を活用)に送付済みのアジェンダを参照し、その場でのミッションを理解します。

サプライヤーに到着したら、現場チームとサプライヤー担当者のやりとりについて、分析官もフォロー(聞く)します。これは、携帯電話やスカイプを活用すれば既に実現可能です。調整・交渉に際して、事前提示以上の情報が必要となった場合には、分析官がその場でデータの検索を行って、数十秒の範囲で交渉の最前線にいる現場チームのメンバーに音声、テキストデータ、および画像・映像といった形でフィードバックします。現場チームは、常に最新情報をベースに交渉や、調整を行います。

現場チームのバイヤーは、サプライヤーからサプライヤーを渡り歩きます。比較的に出張頻度の高い私でも、毎日の出張が毎週継続したらと考えるとぞっとします。従い、現場チームのペアは2チーム以上として、隔週対応するといった現場チームへの配慮を行うことも重要でしょう。年末年始、お盆、ゴールデンウィーク等の休みを考慮して、仮に年間45週をこのような活動を行うとします。週に最低4社のサプライヤーを訪問すれば、2チームの隔週対応で合計180社のサプライヤー訪問が可能です。一日に複数社の訪問(同一地域等)をおこなったり、チーム数を増やしたりすることで訪問可能な会社数はさらに多くなります。

このような組織構築そして業務遂行方法を提案するのには理由があります。それは、この無謀ともいえる組織形態が、実は情報の共有化を確実に実現する一つの方法を提示しているのです。

情報の共有化についての重要性は、今更疑う余地は無いでしょう。しかし、具体的な方法論と言えば、コミュニケーションを密接に……といった、どこでも聞け、誰もが同じ言葉を口にする内容に終始してしまいます。ここで、この組織形態でなぜ情報の共有化が必要なのか、について考えてみます。

オフィスに分析官を配置し、現場チームの人間にリアルタイムで後方支援を行う。少なくともリアルタイムな後方支援を行う瞬間には、分析官と、現場チームの間に情報を共有化が不可欠です。現場で起こっていることの重要度に比例して、分析官以外の人も当然リアルタイムに参加可能です。その進行を理解するために、情報の共有化によって、今何が起こっているのかを正しく理解しなければなりません。情報の共有化は「すべきもの」から、「しなければなないもの」へとなるわけです。

もう一つ、情報の共有化の議論で欠けているもの、それは、いつ共有化するのか、そのタイミングの問題です。

情報とは、日々刻々と常に変化するものです。いうなれば、共有化を行ったまさにその瞬間から、変化に触れることのない人の持つ情報は陳腐化が始まってしまいます。情報の共有化とはいつ必要なのか。分析官と現場チームの組み合わせであれば、現場チームが実働するその瞬間に最新の情報を共有化すれば事足りるわけです。そして一連の行動が終わった段階でひとまずファイルクローズです。残務が残っていれば、その次のアクションのタイミングで、最新の状況を共有化する。その繰り返しなのです。

今回は24 -TWENTY FOUR-というドラマ、まさにフィクションの世界から、調達・購買の組織形態を探る試みをしました。実際、ドラマの中で主人公が対するのは、テロリストであり、犯罪者=敵です。一方、我々バイヤーが相手にするサプライヤーとは敵ではありません。サプライヤーとバイヤーの関係構築でパートナーシップという考え方が登場して数年が経過しています。しかし、未だほんとうのパートナーシップを実現するリレーションが構築できている例は少ないのではないでしょうか。パートナーシップはとても尊い考え方です。しかし、バイヤーとサプライヤーとは、本来利益を巡ってせめぎあう存在であることを忘れることはできません。一つのものを奪い合うという意味では、サプライヤーは敵という側面もあるのです。だからこそ良好なサプライヤーとのリレーションの構築には多くの困難が存在する、バイヤー永遠の課題であるといえるのです。

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