調達・購買業務の2つの型(牧野直哉)

調達・購買部門の業務は、上流部門から依頼され、調達・購買部門で実行されます。上流部門は、製造業の場合、設計・技術部門や、生産管理部門が該当します。調達・購買部門は、上流部門の後工程として機能し、上流部門のニーズや指示によって業務を遂行します。こういった業務を「フロー型業務」と呼びます。そして、調達・購買部門は更に下流のサプライヤーやユーザー部門にサプライチェーンで繋がっています。

調達・購買業務のもう一つの特徴は、サプライヤーにとって顧客の立場である点です。見積書の提出を受けたり、注文書を発行したりといった業務によって、サプライヤーのみならず、調達・購買部門で働くバイヤー自身も好むと好まざるにかかわらず「顧客」の意識を持ちます。しかし、一般的に「顧客」とされる消費者と、調達・購買部門は、購入にともなう意志決定の範囲が大きく異なります。

消費者の「買う」行為は、自分で欲しいモノやサービスを、自らの意志と責任によって、購入先、価格レベルを取捨選択し実行されます。一方、調達・購買部門は、自ら欲しいモノやサービスを買いません。欲しい対象を決めるのも、購入するかどうかを決めるのも、社内の別部門によっておこなわれます。調達・購買部門では、図面や仕様書で明文化された「欲しい対象」が買えるサプライヤーを「発注先」として選定する。そして、発注する際の「価格」を決定する。この二つが、調達・購買業務の根幹になります。しかし、近年の調達・購買業務は、解決の難しい二つの大きな課題・問題が顕在化しています。

① 強いコスト削減要求

顧客からの強い価格低減要求によって、コストダウンの実現の期待は、よりその強さを増しています。しかし見積価格でも、発注価格でも、価格を決定する要素は、上流の購入要求部門が決定します。価格を決定する要素には、何ら手を加えず、調達・購買部門がサプライヤーと交渉だけで価格低減を実現するには限界があります。調達・購買業務を、フロー型業務のみで実行すると、価格低減要求が繰り返しサプライヤーへおこなわれてしまうのです。

② 短納期要求

納入リードタイムは、さらなる短縮化を求められています。そういった市場ニーズに応え、顧客の短納期要求に応えるべく、完成品、半製品、部品レベルで在庫を確保できるかといえば、経理・財務部門に代表される社内から在庫を減らせと指示されます。結果的に短納期要求は調達・購買部門を経由してサプライヤーへしわ寄せされています。

調達・購買部門は、社内の他部門とサプライヤーを結ぶ位置で仕事をします。サプライヤーよりもバイヤー企業が強い場合、フロー型業務でもバイヤー企業で問題は顕在化しません。無理な要求であっても、サプライヤーの自助努力が働くためです。しかし、サプライヤーが限定されたり、供給能力が限られたり、サプライヤーがバイヤー企業の意向に異を唱(とな)える力を持った場合、フロー型業務は円滑な遂行が難しくなります。その結果、調達・購買部門はサプライヤーと社内の間で板挟みとなります。その結果、多くの課題が処理できず機能不全に陥ってしまうのです。

それでは、社内の他部門とサプライヤーの間で板挟みとなり、機能不全に陥った調達・購買部門の打開策を考えます。フロー型業務は、上流から下流へのまさに「流れ」です。しかし、さまざまな要因によって「淀み」が発生し、問題化していると考えられます。

フロー型業務しかおこなっていない調達・購買部門の特徴は、コミュニケーションの不全です。仕様や、数量、納期を、一方的にサプライヤーに通知し、双方向ではありません。またバイヤー評価の優劣も、サプライヤーに要求を飲ませるかによって決められます。無理な要求が、サプライヤー側の取り組みによって対応可能で、その見返りもある場合、一方的な通知であっても機能します。事実、強大な購買力を持つ大手企業では、強い販売力を武器にして、有利な調達・購買を実現させています。

しかし、低コスト、短納期に加えて、高品質の要求は、サプライヤーのメリット創出を難しくしています。サプライヤーが、バイヤー企業のビジネスにメリットがないと判断した瞬間、両社の関係が破綻(はたん)し、値上げ、最低ロット数の引揚げ要求が到来し、注文辞退へと至ります。

フロー型業務しか知らない調達・購買部門は、サプライヤーのそういった行動によって、初めて事態の深刻さに気づきます。しかし一端、厳しい要求を突き付けたサプライヤーの態度を軟化させるのは至難の業です。それは、バイヤー企業からの発注を失ってもよいと冷徹に判断しているためです。

品質、コスト、納期のすべてにおける顧客要求が厳しくなっている今、こういったサプライヤーからの思わぬ要求は、どこの調達・購買部門でも発生します。しかし、従来からのフロー型業務では、サプライヤーから発せられた強い要求の受け入れ以外、対応の術がありません。そこで調達・購買部門は、サプライヤーに開き直りをさせないための管理が重要となります。

フロー型業務の問題点は、調達・購買部門が一方的に通知する、情報伝達の「一方通行」が原因です。では、一方通行をやめ、双方向化するにはどうすれば良いのか。双方向を意識した業務を「フィードバック型業務」とします。フィードバック型業務には2つのポイントがあります。

(1)サプライヤーからのフィードバックを受け付ける

バイヤー企業の要求が厳しさを増している現実を、バイヤー自身が受け止め、サプライヤーからのフィードバックを受けます。しかし、開き直ったうえでのフィードバックは、バイヤー企業側が複数の選択肢を持てません。バイヤー企業にとって不利な条件でもやむを得ず受け入れるしかありません。

そういった状況へと陥る前に、厳しい市場環境を背景としたサプライヤーへの要求をおこなうのと同時に、サプライヤーの状況確認や、問題点をヒアリングして、サプライヤーからバイヤー企業へのフィードバックを実現させます。サプライヤーで起こっている話は、実効性のある改善策のネタ集めにもなります。こういったネタは、同時にバイヤー企業内他部門への調達・購買部門が持つ武器となります。

(2)社内関連部門に購入状況やサプライヤー情報をフィードバックする

サプライヤーからのフィードバックで得た情報は、バイヤー企業社内にもフィードバックします。サプライヤーの実力(生産能力や稼動率)や、市場環境(需給状況)にかんするバイヤー企業内の理解を深めます。

調達・購買部門は、一方的に社内要求をサプライヤーに伝えるのでなく、サプライヤーや、購入品市場の状況を社内にフィードバックして、適切に対応するための情報を提供します。これがフィードバック型業務です。

<またいつか、つづく>

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