ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
3-4プロセスを理解する力~物流知識
物流とは「物的流通」の略称です。製品などのモノを生産者から消費者へ流通させる諸活動の全体を指します。ここでは、一般的な物流の概念と、調達購買で必要となる物流の知識を説明します。最初に調達購買部門にとって物流で考えるポイントを3つ挙げます。
1.購入費用に含まれる物流費
皆さんが決定する購入価格には、決定された購入条件によって発生する物流費が含まれていますか。大手製造業の場合は、引き渡し条件がバイヤ企業の納品場1カ所である場合、サプライヤの見積書に明示がなくても、サプライヤからバイヤ企業までの物流費用は含まれています。モノを買っている場合は、購入費用の中に物流費用は入っているのかどうかを正しく理解します。その上で、購入価格の査定をおこなって、適正な価格の見極めをおこなうのです。
2.最適な物流とは何か
もっともすばらしい物流の姿とは、徹底的な移動距離の削減です。なんでも「運ぶ」との前提ではなく、できるだけ物理的な輸送距離の短縮化を目指します。事業形態や、購入品目によっては、バイヤ企業への納入が果たして本当に必要なのかどうかの検討も重要です。
3.物流=「運ぶ」との認識からの脱却
上記2では、すばらしい物流の姿を徹底的な移動距離の削減としました。しかし実際のビジネスでは、最適地生産、最適地購買を目指して、調達・供給網いわゆるサプライチェーンは全世界に拡大しています。「運ぶ」作業の最適かも重要です。一方で「物流」をイコール「運ぶ」と捉えるのは、物流を的確に捉えていません。「物流」を提供する企業では、より多くの付加価値を求めて以下の5つの機能を基軸に、さまざまな機能を提供しています。
☆物流の5機能
(1)輸送
輸送とは、モノと人の空間的な隔たりを取り払うための、場所の移動です。移動の手段には、車や船・航空機などがあります。輸送する場合は、それぞれの特性を踏まえて、QCDを兼ね備えた輸送手段を選択も必要です
(2)保管
保管とは、モノを管理した状態での貯蔵です。ただ倉庫に置いておけば良いのではありません。保管している間にも、モノの品質が維持されるような管理も含まれています。
(3)荷役
荷役とは、荷物の積み込み、積み卸しで、物流に必ず発生する活動です。輸送や保管の前後に必ずおこなわれ、工場内、倉庫内での短距離の移動や、倉庫での仕分け、生産現場への払い出しといった作業も含まれます。
(4)包装
包装とは、輸送や保管の過程で、品質を維持するために、容器や梱包材を使用したモノの保護です。輸送時のダメージから保護はもちろん、保管時の品質維持のためにも行われます。
(5)流通加工
輸送するモノに対して、包装を行ったり、納入用の通い箱への詰め替え、販売用の値札を取り付けたりといった貨物への付加価値を与える機能です。
☆調達購買が直接的に関係する物流
調達購買部門が関わる物流は、以下の図にある通り、原材料メーカーやサプライヤから購入品を入手する場合に発生する物流です。この物流を「調達物流」と呼び、基本的に、国内外の調達先から自社工場までの工程が対象です。その他、調達購買部門以外の部門が関わる物流には、工場でサプライヤからの購入品を受領してから、自社製品がつくられ出荷されるまでの「生産物流」、自社製品を出荷してから顧客へ届けるまでの「製品物流」、返品やリサイクル目的での「リバース物流」が存在します。
これら各種の「物流」は、バイヤ企業で雇用された従業員でおこなわれる場合もあれば、外注化によって外部ソースによって実現される場合もあります。物流=「運ぶ」といった機能面だけでなく、物流が必要となる社内プロセスも、サプライヤからバイヤ企業間だけではありません。企業方針によっては、調達購買部門で各種物流機能を、事業プロセスの各場面で確保する必要もあるのです。
<クリックすると、別画面で表示されます>
☆高度化された物流サービスを積極活用する
近年では新興国からの調達も増加し、従来よりもサプライチェーンが距離的に長くなっています。また、ジャストインタイム(JIT)方式によって、納入ロットも小口化され、時間単位での納期管理もめずらしくありません。そのような厳しくなった納入条件への対応は、さまざまな物流機能の複合的な活用が必要です。たとえば、輸送を、陸上、海上、航空それぞれ一つでおこなうのでなく、組み合わせて、より安く、より早い輸送を実現できます。また、輸送を基点にして、輸送に耐える梱包を依頼したり、生産に適したロットと、納入ロットに差がある場合は、一括して倉庫へ出荷し、そこから顧客へ分けて納入したりといった物流機能の活用も可能です。また、バイヤは調達物流だけでなく、調達購買部門以外の部門が関わる、生産、製品、リバースといったあらゆる輸送に関するQCDを確保しなければなりません。そのためには、今どんな輸送サービスが存在するかといった情報収集が必要です。輸送業者は、輸送手段や、海外であれば地域によって特徴をもっています。自社の物流に必要なリソースを理解して、最適なQCDを実現する物流業者の選定が必要です。
<クリックすると、別画面で表示されます>
<つづく>