コストテーブル論2 (牧野直哉)
前回に引き続き、コストテーブル論の第二回です。前回は、コストテーブルの定義や、原価構成要素について述べました。今回も引き続き、コストテーブルの基本的な構成を理解する内容です。
●キーファクター~コストに影響を与える要素
購入価格とは、見積依頼内容を価格に数値化した結果です。したがって、見積依頼内容もしくは見積内容には、価格に大きな影響を与える要素が必ず含まれています。その要素がなければ、見積価格に根拠がなくなってしまいます。今後「キーファクター」と呼びます。コストに大きな影響を及ぼす要因には、大きく次の3つです。
(1)自社の製品やサービスを区別する方法から見極める
サプライヤーからの購入品は、自社のどんな用途に振り向けられるのでしょうか。出力や大きさ、グレード(普及品や高級品)といった区別できる要素はありませんか。そういった自分たちの要求内容に、見積金額を決定づける要素があるはずです。そういった要素から、購入価格の妥当性を見極める情報をみつけます。例えば、類似の使用目的がある購入品は、出力が大きければ、小さなものと比較すると価格が高くなるといった判断ができます。
(2)外形的要因
サプライヤーの提出する見積内容に記載された、容積、高さ、長さや幅といった「大きさ」や「重さ」といった外観による判断です。この要因は、原材料に近い、サプライチェーンの川上に位置するサプライヤーから購入する場合に判断材料として活用できます。また、発注後の調達リードタイム(日数)も、長い=それだけ手間が発生している可能性があります。労働集約的で、原材料に近い購入品の要因に適しています。
(3)機能的要因
サプライヤーから提示される出力や容量、できること、できないことで表現される機能によって判断する内容です。 (2)の内容とは異なり、比較的サプライチェーンの川下に位置するサプライヤーから購入する場合に適用します。いくつかの材料や部品を組み合わせて、何らかの目的を達成する製品となっています。サプライヤーのノウハウが数値化(金額)されているケースです。
これら3つの要因を前提に、見積依頼内容やカタログ、仕様書、図面といったサプライヤーから提示される資料を参照して、キーファクターの「当たり」をつけます。当たりかな?と思わせる内容でOKです。違っていれば修正する前提で「軽い気持ち」で選定します。そもそもこの段階で、確固たるキーファクターの見極めは難しいのです。実際にコストテーブルを作成しながら、実用的に活用可能なキーファクターを見極めます。具体的なキーファクターの情報源と、その参照ポイントも参考までにお知らせしておきます。
①仕様書~購入製品の情報として
・機能
・材質
・品質要求
・時間(文字数・時間)
②レシピ~購入品に必要な
・プロセス
・原材料
③図面
・大きさ
・形状
・材料
④ヒアリング
・サプライヤーの営業パーソンから聴取
・工場訪問時に関係者にヒアリング
・トラブル発生時はチャンス!
サプライヤーから入手する文書だけでなく、営業パーソンとのコミュニケーションの中でも情報を入手が可能です。一回のコミュニケーションでキーファクターにまつわる全ての情報を丸裸にするのは難しいでしょう。しかし、情報をコツコツ積み重ねていけば、キーファクターをかなり正確に掌握できる情報構築が可能です。一見するとバラバラな情報を組み立てる能力がこの場面ではとても重要になります。
●コストテーブルに機動性を付加するツール
コストテーブルの作成には、次の3つのツールが不可欠です。
1)表計算ソフト
パソコンの表計算ソフトをコストテーブル作成に活用する理由は、データ管理とグラフ化が容易に実現する点です。データ再入力すれば、あらゆる試行錯誤が一瞬のうちに可能になる極めて有効なツールです。2018年に考えるコストテーブルは、表計算ソフトが必須といえるでしょう。
2)データ
自社が作成した見積依頼書であり、サプライヤーから提出される見積書ならびに関連資料です。また、類似の購入品を繰り返している場合は、過去の購入データも活用できる資料です。過去のデータは、社内の情報システムに蓄積されているはずですから、データのみを抜き出してコストテーブルに活用します。
3)各種統計資料
各種統計資料とは、インターネットを活用して入手する資料や、有料で販売している文献を指します。原材料の市況や景気動向は、参照するサイトを決めて定点観測を行います。
●コストテーブルの欠点
次回から、実際に誰もが知っている製品をネタにコストテーブルの作成を行います。その前に、多くのコストテーブルが陥る、コストテーブルに関する誤解であり欠点を理解する必要があります。
まず、コストテーブルに完成はありません。理由は3つあります。
まず、購入価格に影響を与えるコスト要素は日々変動しています。原材料費の市況の変動や、最近では人件費の上昇も、購入価格に影響を及ぼす要因です。したがって、コストテーブルは一度作成したら終わりなのではなく、データの変化に合わせて更新の継続が欠かせません。
続いて、サプライヤーで発生している実際のコストはわかりません。実際に発生しているコストを正解とするなら、バイヤー企業で作成するコストテーブルは永遠に正解にはたどり着けないでしょう。しかし、かなり近い線をバイヤー企業の分析による解き明かしは可能です。それには日常的にコストテーブルの更新を前提とした継続的な情報収集が欠かせないのです。コストテーブルに完成はなく、現時点で最新の状態の維持に意義があるのです。
最後に、コストテーブルに対する信頼と疑いのバランスです。これまでに述べたとおり、購入価格を構成する要素が変動する前提であれば、コストテーブルが絶対的な存在にはなりえません。したがってデータ更新を怠らずに行って、その信頼性を担保し続けます。また実際にコストテーブルを作成し、価格の傾向をグラフで表してみると、いろいろな疑問が湧いてきます。
コストテーブルの信頼性向上には、疑問の解消が欠かせません。疑問ではなく、新たな情報の入手により、これまで作成していたコストテーブルが間違っていたと判断せざるを得ない状況も想定されます。そんな時は、間違っていた現実を後悔するのではなく、あっさり修正して次からの購入に備えましょう。コストテーブルを、更新作業なく信じ続けるのが最も危険なのです。
(つづく)