楽しく「買う」ための思考法・仕事術(牧野直哉)

週休三日の明るく前向きな活用法

「帰休生活をエンジョイしてるわよ!」

以前勤務していた会社の同僚の近況報告だ。1日/週の一時帰休が実施されている。需要減少によって社内の雰囲気も良くないだろうに、この同期は何か楽しそうだ。通常の休日に加え、毎週金曜日が休みなので毎週3連休なのだ。いい話がなければ、気持ちだけは明るく前向きにいるべきであり、 一時帰休による休日の増加をエンジョイすることは、とても素晴らしいことだ。

一方、元気がない同僚たちもいる。

「仕事が回らなくて、どんどんたまっていくばかり」

「需要は減っても、逆によけいな仕事がふえるばかり」

「時間がなくて仕事ができないんですよ」

いろいろな発言をまとめると、次の三つのポイントが浮かび上がる。

1.仕事とは十分な時間をかけないとアウトプットできない

2.需要減と仕事量は無関係

3.新たに創出されている時間への無関心

まず「仕事とは十分な時間をかけないとアウトプットできないと」。この会社の一般的な勤務時間は次の通りだ。過去と現在の対比で見るとこうなる。

通常 8時間/日+残業2時間×5日=50時間/週の勤務時間

現在 8時間/日+残業0時間×4日=32時間/週の勤務時間

過去に対して現在では32/50=64%の時間しか費やすことができないことになる。

続いて「需要減と仕事量の無関係」。需要減少に伴って仕事量は減らない。これは需要がゼロになっても発生する固定的な勤務時間が 多いということだ。需要が減ることは、購入数量の減少であって、購入アイテムはこれまでとかわらないというのがその主張の根幹にある。

最後に「新たに創出されている時間への無関心」だ。冒頭に登場した同期は、1日増えた実質的な休日を頼もしいくらいに前向きにエンジョイしていた。ところが、多くの元同僚たちは、休日の過ごし方へ言及することがなかった。

これら全ては、ある一つの要因に行き着く。変化への対応だ。そして、これらが起こっているほんとうの原因は、今現在の置かれている状況でなく、もっと以前のある出来事に起因するのだ。

2003年以降、日本の多くの機械メーカーが増産に沸いていた。同時に進行した原材料費の高騰によって、 価格交渉は難航を極めていた。バイヤーたちは、そんな需要増と材料費の高騰にともなった業務量の増加を、残業や休日出勤でなんとか業務をこなしていた。私は2003年以降の経済状況をバイヤー受難の時代と考えている。価格交渉もソコソコに、皆数量の確保に走らざるをえなかったからだ。「やむを得ず」こんな言葉を御旗に掲げ、許される労働時間を存分に使って仕事をしていた。しかし、バイヤーは、存分に残業を、休日出勤をおこなっていたことによって 今苦しんでいるのである。

コスト削減活動は永遠のものであり、終わりなき旅だ。我々バイヤーは、手を変え、品を変え、コスト削減の飽くなき追求をおこなっている。ただよく考えてみれば、コスト削減を唱えるだけであればこんなに楽なことはない。要は、自らがコストの発生源であることを認識し、自ら発生させているコストをどれだけ削減できてきたかが、今問われているのである。裏を返せば、需要が増える局面で目いっぱい時間を使って、それまでと同じやり方で仕事をおこない、 仕事量の増加にともなって自分の仕事のやり方を見直すことがなかった事が今、自分の身に降りかかっていると言って良い。

昨日より今日、今日より明日、コストは削減されなければならない。同じように、仕事をおこなう時間も、昨日より今日、今日より明日は短い時間でおこなわなければならないことを、どの程度意識し、実践してきたかが今になって影響しているのである。4号の坂口さんの記事には、モチベーションがあるときは仕事ができてあたり前で、モチベーションがないときに、どれだけ最低限の仕事ができるかが重要であることを説いていた。まさに今、生産数量の減少によって、増加局面とは異なる厳しい条件提示をサプライヤーから受け、思い悩み疲弊しているのが多くのバイヤーの姿であろう。 そして需要減の影響は、労働時間の強制的な短縮をも引き起こし、モチベーションも低いことがうかがえる。しかしよく考えて欲しい。景気循環はおこるものだし、増加局面の後には減少することは必然なのだ。

そして、需要増加の局面における仕事量の増加を、残業・休日出勤の増加で対応することは、労働時間の変化で対応したことになる。 しかし、仕事の中身には踏み込んでいない。これは、他人、サプライヤーにはコスト削減を働きかけるバイヤーが、経済状況の変化にともなって当然おこなわなければならない自分達仕事内容の変化に何一つ取り組まなかった事にほかならない。そして今、外圧によって労働時間の削減をせまられている。この状態は、バイヤーがサプライヤーへコスト削減を強いる構図と何ら変わることはない。時間とコストの違いだけだ。自分の仕事を変化させられないバイヤーはサプライヤーへコスト削減をどうやって唱えるのだろうか。

普段自分がサプライヤーの皆さんへ言っていることを振り返ってみる。

「どうしてこんな材料を使っているの?」

「どうしてこんなに歩留まりが悪いの?」

「設計時間、かけずぎじゃない?」

「このレートの根拠は?」

「この工数って、どういう根拠?」

「この見積に費やす効果って、我々が得られると思う?」

「これだけ検査に時間をかけて、なんで不具合品が流出するの?」

そして、同じ言葉を自分の仕事へむけて自問自答してみる。自分にできないことを他人に強いる事はできないのだ。だったらやってみるしかない。強制的に労働時間が短縮されているといっても、その分のサラリーはゼロにはなっていないはずだ。で、あれば、逆手にとって帰休となったその一日に何をするか。次の状況変化への準備に当てるべきである。コストフリーの一日の有効な10の利用法を次に提案する。

1.昔読んだ本を読み返す

2.普段取っている新聞を記事から広告まで隅から隅まで読む

3.テレビのニュースを二カ国語放送で聞く、同じ日に何度もやってみる

4.図書館へ行って、興味の持てない雑誌や本に目を通してみる

5.手帳やメモの内容を読み返してみる、頭に浮かんだことを、新たにメモする

6.何か一つテーマを決めて、ネットで徹底的に調べて、その道のプチ専門家になる(例えば一時帰休とは?なんてテーマも有り)

7.普段だったらしない話を家族にしてみる。

8.過去に行ったことがない近場に、歩きか自転車で行ってみる

9.今、世の中にはどんな仕事が、どれくらいの相場であるのか?を調べる

10.不要なモノを徹底的に捨ててみる

一時帰休というくらいだから、定常的なものではない。だったら、その過ごし方も少し工夫して特別な日にしたらどうだろう。何か一つでも気づきを得ることができたら、それは何かの変化の胎動に違いない。

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