ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●決定版サプライヤーマネジメント 6

「区別」したサプライヤーへの取り組み

前回は、区別するサプライヤーを見極める方法を述べました。増刊号では代替サプライヤーの存在の見極め方もお伝えしました。サプライヤーを区別するには、次の3つのデータが必要でした。

1. 発注金額
2. 代替サプライヤーの存在
3. 発注内容の性格

今回は区別したサプライヤーへの取り組みです。過去のデータを踏まえ、また経営戦略から将来必要となるリソースを見いだし、未来に取引をおこなう可能性のあるサプライヤーを見つけた後になにをおこなうか、を考えてみます。ここで、少し前の多くの企業が実践していたサプライヤーマネジメントを振り返ってみたいと思います。

今から10数年前からでしょうか、たくさんの企業の資材調達のホームページに「パートナーシップ」という言葉が登場します。パートナーシップとは、次の語彙です。

1 〔…との〕提携, 共同, 協力, 協調〔…間の〕協力[共同]関係

2 組合契約, 共同経営[事業];組合;合名会社, 商会

たくさんの調達・購買部門がサプライヤーとのパートナーシップを構築すると、高らかに宣言していたわけです。では、それまでは上記の語彙にみられるような協力・協調関係はなかったのでしょうか。そんなことはありませんよね。実際私は当時から調達・購買の世界に身を置いていましたが、協力関係の中で協業を実現させていたサプライヤーもありました。今回ご紹介している語彙は辞典に載っているそのものです。調達・購買として唱えていた「パートナーシップ」には、従来の関係よりも密接なものを求めていました。緊密な協力関係を築いて、厳しさを増す経営環境を一緒に乗り切って行こうとするものです。しかし、従来のこの主張には欠如している点が2つありました。

一つ目は、緊密な協力関係を築くとしつつ、では具体的にどのような手段を持って関係を高めていくのかという手段を持っていなかったこと。そして二つ目は、協力関係を築いて後、これまでと異なる何を具体的に求めるかをサプライヤー個々に設定しなかったことです。この点、あえていえば、バイヤー企業の指示を忠実に無限責任的に守れ、でしょうか。ちょっとパートナーシップとはほど遠い実態でした。

この反省にもとづいて、最初は「区別」した事実を、サプライヤーに伝えることから始めます。「御社は、我々にとって重要なサプライヤーです」と、営業担当者に直接伝えます。担当者のみならず、上位者からもサプライヤーの上位者へ直接に、明確に「区別」していることを伝えます。ポイントは、バイヤー企業側の担当者から上位者である経営幹部、要すればトップマネジメントに至るまで、「区別」して扱うことを共通認識として持つことです。その上で、その認識を口にして相手=サプライヤーへ伝えることです。「区別」している事実を認識して、行動(=相手に伝える)するわけです。相手に伝える手段は、区別したサプライヤーの総数にもよります。「区別」した結果として、取引先協力会が存在するのであれば、その会合で明言する。また、個別の面談で直接伝える。できれば、何度もくり返すことが必要です。くり返すことでサプライヤー/バイヤー企業双方に共通の認識が生まれることにもなるのです。

ここで「上位者まで共通認識を持つこと」の「上位者」について考えます。今回述べているような取り組みで、バイヤー企業側で上位者から担当者まで共通認識を持てるかどうかは、サプライヤーマネジメントそのものの成否に大きく影響します。同じ認識がなければ、その先の行動に整合性は生まれません。特に、過去に調達・購買部門で実務をおこなっていた上位者は、過去みずから担当していたサプライヤーの存在があり、そこには上位者の過去の業務に根ざした人間関係が存在します。この関係・結びつきと、今回「区別」したサプライヤーに違いがある場合には、特に注意します。この点は、一見すると他愛のない話かもしれません。しかし、そういった過去の関係にすがるサプライヤーが存在することも事実です。具体的な「注意」の方法としては、上位者の過去の経験に根ざした認識を否定せず、現在進行形でサプライヤーを「区別」した根拠を明確にすることです。上位者には、みずから過去にお世話になったサプライヤーに、現在そして将来に重要になるサプライヤーを「加えて」貰います。かつて自分で重要と思っていたサプライヤーが、現時点では「重要でない」と区別されることを「否定」として認識され、これからおこなうサプライヤーマネジメントに、上位者が阻害要因とならないために必要な配慮です。

つづいて、区別したサプライヤーになにを求めるのか、得ることができる「成果」を再確認し、かっこたる事実として認識します。なんらかの根拠を持って「区別」しているはずですね。その根拠には、調達・購買活動をおこなう上での問題点を内包しているはずです。区別したのであれば、問題点の解決を図る必要があります。どのように問題点を結果(解決)へと導くのか。導いた結果、どのような成果を購入側として得ることができるのかを明確に設定します。区別は、QCDをベースにしたサプライヤーの評価をもとにしていますね。したがい、評価の低い点にフォーカスして、改善を促した結果を想定するわけです。そして、具体的に「区別」したサプライヤーとの協業によって、想定した成果を実現するプロセスへと移行してゆくわけです。

<つづく>

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