短期連載・坂口孝則の情報収集講座(坂口孝則)
この大学からかぞえて20年ほど、ずっと「調べて書いて、発表する」行為を続けてきました。社会人になると、「この資料作っておいて」といきなり言われるケースは多いはずです。むしろ、会社員の仕事の大半は、資料作成といっても良いかもしれません。そこで自分なりに総括したい気持ちもあり、『情報収集講座』と題し、短期連載としてメルマガに掲載することにしました。
【第8回】ストーリーチャートは逆算しよう
資料のストーリーチャート作成に関して重要なことを述べておきます。資料作成時、通常考えられているのは、次のようなものです。「さまざまな情報を集めて、そして、それをグラフ等にまとめる。そして、うんうんとうなりながら、そこから言えることを考えて結論を導く」。本来、これはあきらかに正解です。
しかし、私は調べる前からストーリーチャートを書け、といいました。もちろん、ストーリーチャートを作って調査したあとにストーリーチャートを修正していきます。しかし、調査前に、調査後を予想するなんて邪道ではないでしょうか。その邪道こそ、私がお伝えしたい方法です。
つまり、結論を予想してストーリーチャートや資料を作成していくべきです。この邪道を、かっこよくいえば「仮説」といいます。すなわち、「この結論を導くためには、その直前で何を言えばいいのか、そこではどんなデータがあれば良いのか、そしてそれはどんなグラフで差し示すべきか、そのデータはどこから導くべきか」と、自分の考えるように、いわば、データの「いいとこ取り」をするわけです。
これを説明するのは非常に難しく、最初に聞いたひとは「結論ありきのとんでもない資料作成方法を教えているんじゃないか」と怒るひとがいるかもしれません。したがって、これをいうのは勇気がいります。しかし、それでも私は結論から逆算した資料作成を勧めします。
なぜならば、結論から逆算し、データを「いいとこ取り」して資料作成しようとしても、そのような都合の良いデータを集められない場合は、その仮説が間違っていると初期段階から気づくからです。それによって仮説構築から検証までのスピードが格段にあがります。もちろん使うデータや数字はごまかしてはなりません。まちがいなく正確なデータを使うべきです。
そして次がもっと重要です。逆算して資料を作った結果、すぐれた資料が出来上がったとします。情報を集める際にみなさんがその情報を疑うのとおなじく、あなたの資料を疑おうとするひとが必ず出てきます。できるだけ意地悪な人間になって、自分の資料を見なおしてください。どこかにつっこみポイントがないでしょうか。意地悪な質問にちゃんと反論ができるでしょうか。
たとえば、「意図的なデータを選択しているのではないか」といった質問には、公平公正なデータ選択だといえるでしょうか。あるいは「情報の収集に穴がある」という質問に答えられるように多面的な情報を収集しているでしょうか。もし反論できなければ、あなたの資料は間違っているか、少なくとも物事の一側面しか見ていない可能性が高くなるでしょう。しかしこの自問自答を繰り返していると、徐々に情報収集の勘所もわかるようになってきます。
ちなみに私は会社員のころ、役員報告の資料を作成していました。従来の仕事をやりながら、「お前の資料作成が早いから」というわけです。そのときには、役員から、考えもしなかった指摘や、ぶっとんだ質問がやってきます。若い社会人にとって緊張する場を踏むことが自分の情報収集にもある種の厳格さを与えます。
*絶対解がない時代に必要な仮説構築力
これまで述べたことは、資料作成の正統派からは怒られてしまうかもしれません。ですが、私が実感として本当に重要だと思い、常に活用している方法です。一回聞いただけでは、「ふーん」と思うだけかもしれませんが、いったん自分の業務に当てはめて考えてください。
この方法を勧める理由は、現代のビジネスパーソンの仕事において絶対解なんてものは存在しないからです。Aを選択すれば、Bは損害を被る。AとBを選択しても、Cの被害はゼロではない。などなど、どうしても矛盾や問題を抱えたまま何らかの意思決定をせざるをえません。そのようなときには、あていえば、直感や直観に頼らねばならないときもあります。
直感や直観を使うしかないけれども、論理的に説明せねばならない、という状況があります。そのときに、この逆算思考を使うのです。まず結論はこう、それを裏付けるグラフはこれ、データはどこから入手して、妥当性がある、そして施策として今回の結論がある、と。
繰り返すと、もちろん、報告を聞いてくれるひとたちを騙すために使ってはいけません。最後まで「いいとこ取り」の資料は、そのうちメッキが剥がれますから、厳しい自己精査が必須ではあります。
しかし、データを積み上げるだけではなく、まず結論やありたい姿を設定したうえで、そこまで到達する手法を考えた方が仕事ははるかに面白いことは強調しておきたいと私は思います。
【第9回】常に時間を意識した情報収集をしよう
QCとはQuality Control、つまり品質の管理のことです。そして、QCを改善するツールとして、QC七つ道具というものがあり、①グラフ・管理図 ②パレート図 ③特性要因図 ④チェックシート ⑤ヒストグラム ⑥散布図 ⑦層別 のことを指します。
製造業以外のひとは縁遠いかもしれません。ただ、これはどんな業界のひとでも、資料作成を念頭においた情報収集の際に役立ちます。製造業にはQCサークル(品質や生産性の向上を目指す社内グループ)があり、QC七つ道具が使われるのはQCサークルぐらいだろ、せいぜい生産現場か品質部門だけだろう、と思われています。しかし、問題解決手法は特定業界にかぎったものではありません。
*必要におうじたQC七つ道具の使い分け
たとえばこんなとき、QC七つ道具のそれぞれが活用できます。たとえばなんらかの問題をとりあげて、その問題解消を提示する資料とします。
1.資料作成テーマを正当化したいとき:パレート図を使います。その問題は、どれくらい発生しているかを表示します。
2.現状を把握する:問題が現状に与えている影響です。これはグラフ・管理図を使用します。
3.目標を設定する:問題をどれだけ解消したいかです。問題発生を現状の100分の1にする、など。これもグラフを使用します。
4.問題と原因の究明・・・問題がどのようなメカニズムや原因で生じているかを明らかにします。これは、特性要因図を使用します。
5.問題発生時の特性の究明・・・問題発生しているときはどのようなときが多いかを究明します。例えば、時系列で見たときに季節による違いはないか。使用機器による違いはないか。年齢別に発生頻度が違わないか。などなど。これには、グラフや管理図、チェックシート、ヒストグラム、散布図、層別を使用します。
*そのグラフと、その情報を選択した根拠をいえるようにしよう
ところで私は、職場の鬼上司から多くを学びました。とくに勉強になったのは「なぜこの情報を選択した?」「なぜこのグラフを選択した?」と聞かれ、それに的確に答えねばならなかったことです。たとえば「いろいろ考えて、これにしました」といおうものなら「じゃあ、それをすべて挙げろ」といわれました。私が三つくらいで止まると、「たった三つしか検討していないのに、いろいろといったのか」と叱責されました。
グラフを選択するとき、そこに明確な意図がなければなりません。たとえば、AとBとCの値を比較するとき、全体に占めるパーセンテージを強調したいのであれば円グラフですし、絶対値を比較するのであれば棒グラフです。さらに経年変化こそを強調したいのであれば折れ線グラフです。
このように漠然と資料作成、情報収集するのではなく、そこに根拠をいえるように訓練することが大切です。
<つづく>