バイヤー現場論(牧野直哉)

11.情報を入手するとき

ビジネスパーソンは、さまざまな意志決定をおこないます。意志決定には、何よりも情報を収集し、現状の分析した上で見出す、決定の根拠が必要です。情報入手は、どのようにおこなえば良いでしょうか。二つの方法を考えます。

一つ目は、特定の情報ソースから提供される情報です。企業経営であれば、上位役職者や経営幹部、一般社員とは、持っている情報に大きな違いが存在します。調達・購買部門でおこなうサプライヤーマネジメントで、バイヤー企業とサプライヤーのトップの交流は、より経営に近いレベルの情報を持っているどうしで、双方の戦略適合をテーマにしておこないます。こういった情報の入手は、企業における「立場」が大きく影響します。一般社員であっても、サプライヤーの上位役職者から、いわゆる「ここだけの話」を聴取し、対応を検討する場合もあります。

重要なのは二つ目です。広く一般に公開されている情報です。インターネットを経由して入手できる情報だけでも、一日当たり数千ページ分の情報が入手できます。そして、実務レベルの意志決定には、そういった誰もが入手できる情報が重要です。こういった情報の入手方法と、入手した後の対応を学びます。

① できるだけ多くの情報に触れる

従来の情報ソースは、新聞や雑紙、テレビやラジオといったマスコミによってもたらされました。IT技術の進展、インターネットによって新たな情報ソースが増えています。

一つ目は、政府に代表される行政官庁が発表する情報です。従来マスコミがそういった情報を入手し、分かりやすく加工して報道していました。現在はマスコミと同じ情報をインターネット経由で入手できます。この元データ/原データの入手が重要です。

マスコミが報道する内容は、広く世間一般にとってのニュースバリューを持っています。しかし、そういったマスコミの視点と、自分が欲しいと思う内容は同じでしょうか。調達・購買の現場で欲しい情報は、なかなか一般的なマスコミで報道されません。だからといって、情報のないままに、いろいろな意志決定をおこなうのは、暗夜を暴走するようなものです。こういった問題を解決するための二つ目の方策は、できるだけ多くの情報入手です。従来メディアである、テレビやラジオ、新聞や雑誌だけでなく、インターネットから積極的な情報を入手します。二つの情報入手方法を御紹介します。

□Googleアラート

Google社が提供するWeb上のデータを知らせてくれるツールです。自分が気になるキーワードを登録すれば、希望する頻度で、メールの受信箱に情報のURLとページの題名が自動配信されます。調達・購買業務における活用方法は、担当サプライヤー名の登録です。サプライヤーに関連するインターネット上の情報が苦労なく入手可能です。また、あってほしくないサプライヤーの倒産でも、比較的早い情報入手が可能です。比較的頻繁にやり取りしているサプライヤーでなく、年に数回取引をするサプライヤーの現状掌握に、大きな力を発揮するでしょう。もし、サプライヤー名に該当する情報が多い場合は、サプライヤーの社長名で登録すれば、情報の絞りこみが可能です。

□RSSリーダー

このツールは、インターネット上の特定のページを定点観測するためのツールです。先に御紹介した行政官庁が発表するデータは、発表の都度、内容を確認してこそ推移や変化に理解が進み、大きな効果が生まれます。またメンターと呼べる人のブログやホームページを登録しておけば、情報の更新を逃さずに入手できます。

パソコンやスマートフォンのアプリを活用して、Googleアラートで「おもしろい!」と思ったページを、登録します。代表的なアプリに、Feedly( http://www.feedly.com/ )や、Feedspot( http://feedspot.com/ )、livedoor Reader( http://reader.livedoor.com/ )があります。

□キュレーションサイト

さまざまなニュースをまとめて表示してくれます。最近のアプリでは、自分の興味に合わせたテーマに絞りこんで表示可能となっています。代表的なアプリはSmartNews( https://www.smartnews.com/ja/ )や、Newspicks( https://newspicks.com/ )、Yahooニュースのアプリでも同様に活用可能です。また、製造業に特化したニュースイッチ( http://newswitch.jp/ )といったサイトもあります。

ご紹介した3つのツールを活用すれば、最大数千件の情報にアクセスできるきっかけが得られます。それだけの情報にアクセスしても、知りたいと思う内容は、数件程度です。しかし、アクセスする情報を多くすれば、それだけ自分に役立つ情報の入手ができるのです。

②情報を入手した後、どうするかを考える

多くの情報に触れて、自分が知りたい、あるいは役立つ情報が入手できたら、次に情報を分析します。入手した情報でもっとも重要なのは事実です。その上で、事実をどのように判断し、自社や自分の行動にどのように反映させるかまでが、情報活用のプロセスです。

入手した情報には、事実と情報発信者のコメントが一緒になっているケースもあります。そういった場合は、どこまでが事実で、どこからが情報発信者である筆者のコメントかを見極めます。例えば、こんな記事を読む場合です。

×日の東京株式市場で日経平均株価は大幅に続落した。取引時間中としては昨年××月××日以来、約×週間ぶりに1万7000円を下回る場面があった。前日比の下げ幅は一時、490円を超えた。原油安や××××の政情不安などで×日の欧州や米国の株価が大幅に下落し、東京市場にも売りが波及した。

この記事で、事実と記事の執筆者のコメントを分けてみます。

事実:
・×日の東京株式市場で日経平均株価は大幅に続落した
・取引時間中としては昨年××月××日以来、約×週間ぶりに1万7000円を下回る
・前日比の下げ幅は一時、490円を超えた
・原油安
・欧州や米国の株価が大幅に下落

コメント
・××××の政情不安など
・東京市場にも売りが波及

これは、株価の推移を伝える記事です。この記事から、株式売買のマインドは冷えこんでいると判断できます。しかし、その原因が政情不安や、海外の株価下落によって東京市場で売られたかどうか、その因果関係はわかりません。したがって、株価下落のほんとうの原因はなにか?と問題意識が必要になるのです。

②より多くの情報を入手する方法

より多くの情報を入手するためには、身近な人への情報発信が有効です。これまで御紹介した情報入手と分析方法を活用します。例えば、あるサプライヤーに関連して、サプライヤーの所在地で発行されている地方紙に、記事が掲載された情報を入手した場合を想定します。地方紙では、全国的なニュースを、地元に関連付けて報道する場合があります。そんな場合、入手した情報を当事者であるサプライヤーに伝えます。設備投資の記事だったら、生産体制や事業方針にどんな影響を与えるのかといった質問によって、さらなる情報収集が可能です。

また、情報を入手したサプライヤーへ過去に一緒に出張した同僚にも「参考情報」として発信します。サプライヤーの担当者と交わす会話のネタにもなりますし、丁寧な情報収集をおこなっているなと同僚に印象付ける効果も期待できます。こういった取り組みを積み重ね、同僚から「こんな話知ってる?」と、情報提供があれば、新たな情報源の獲得です。

こういった情報発信を通じ、情報源は、サプライヤーだけでなく、社内関連部門にも確保します。成立した情報によるコミュニケーションをきっかけに、相手とのパイプを強固なものへと成長させます。それには、繰り返し価値ある情報の提供の継続が必要です。

(つづく)

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