ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

サプライヤーマネジメント原論 10~関係継続理論

前回は、サプライヤーと取引関係を継続することが、バイヤー企業側に日々数十万円のメリットを生んでいることをお伝えしました。しかし、そのメリットが具体的に見えない。そして毎日生まれているが故の慣れによって、当たり前になってしまう。取引の継続で得られるメリットの多くは、失ってから気づくわけです。

このページには、取引基本契約のひな形に関する検索結果です。ひな形に頼らずとも、実際に皆さんが実践されている日々の取引のベースにある取引基本契約書をご覧になってください。このページのサンプルを見ても同じなのですが、具体的に「取引の継続」を謳う条文というのは存在しません。このページひな形に以下のような文言が登場します。

売買基本契約書(商品取引)

会社名:(以下、「甲」という。)と、会社名:(以下、「乙」という。)とは、甲と乙の間における継続的商品取引について、次の通り、基本契約を締結する。

第1条(目 的)

甲は乙に対して、甲の取扱い商品(以下、「商品」という。)を、継続的に売渡し、乙は、これを継続的に買受ける。

ココから引用)

「継続」という文言はありますが、およそ強制力を伴う内容とは言えません。

継続への合意が明記されていない理由、一つは「そんなもの、あたりまえ」というものがあります。そしてもう一つは、バイヤー企業側の原因によって継続できなかった時の為です。製品やサービスのライフルサイクルの短期化による仕掛かり、死蔵製品在庫増加の「リスク」と捉えている為といえます。この部分は、バイヤー企業側のご都合主義模様ですね。しかし、この自分にとって都合の良い、バイヤーのご都合主義が、日々徐々に必ず起こっているサプライヤーの変化へ盲目的にさせる最大の原因です。バイヤーにしてみれば、なにやら突然にサプライヤーに問題が起こったかのごとく見えます。それは、毎日生まれている少しのすれ違いが、ある日顕在化すると考えるべきなのです。

前回は、機械部品における寸法や重量を計測する機器が正しい測定結果を出し続けるための「校正」を例にしました。正しい測定結果を出し続けるには、一定のコストが必要なのです。(詳細は、こちらをご参照願います)サプライヤーとの関係継続も、測定器具への校正と同様に「費用」が発生します。サプライヤーとの関係は、バイヤーとの人間関係の中で構築されます。以下の図は、サプライヤーとバイヤー企業の、それぞれの組織をイメージしています。それぞれにバイヤー企業側は調達購買部門を、サプライヤーは営業をそれぞれ窓口として、関連部門があります。それぞれに担当者から役員までの階層をイメージしています。

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そしてサプライヤーとの関係度合いを示してゆきます。次の図【ケース1】は、サプライヤーとの一般的(普通、可もなく不可もない)関係を示しています。バイヤーと営業担当、そしてその上司同士に面識がある、といった内容です。ポイントは、囲まれた面積です。

【ケース1】<クリックすると大きくなります>

次の図【ケース2】では、囲まれた部分が大きくなっています。それぞれ調達・購買部門と、設計部門の役員レベルまでが網羅されています。

【ケース2】<クリックすると大きくなります>

上記のケース1・2で示された、囲われた部分の面積の差が、関係性の重要度を表します。次に面積の大小が、双方の関係構築・維持にコスト面でどのような影響を及ぼすかを考えてゆきます。次の表は、サプライヤーとの面談回数を示しています。次の表の前提条件は以下の通りです。

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1. 年間50回面談(打ち合わせ)する(一回/週のペース)
2. 打ち合わせ総回数のうち、2割の回数が、全体の8割の回数に行う打ち合わせ内容に大きな影響を与えるものとし、上位役職者も交えて実施するものとする

そして、業務のつながりを考慮して、関連部門の打ち合わせ回数も設定してみます。上記の例では、設計部門、生産管理部門との打ち合わせが、調達・購買部門の打ち合わせ回数の2割に相当するとしています。製造・品証部門は、設計・生産部門の2割と仮定します。0~1回と設定している回数を1回とカウントし、一回の打ち合わせを2時間、各部門、それぞれの職位の平均レートを5千円とします。上記の表のケースでは、各部門の打ち合わせ時間の合計が190時間となります。平均レートが5千円なので、190(時間)×5(千円)=950(千円)の費用を発生させていることになります。次の表は、調達・購買部門打ち合わせ一回当たりの、関連部門の打ち合わせ回数を指数化したものです。この指数を用いることで、バイヤーが年間何回打ち合わせを行ったか、によって各部門の想定される打ち合わせ回数が算出され、各サプライヤーとの関係維持に費やす金額が明らかになるわけです。

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次回は、今回算出した数値によって、何を行うかについてです。

ここで、上記の指数についての注記です。

● 営業部門の扱いについて

この有料マガジンをお読みの方は、多くの場合バイヤーですね。皆さんが例えば、自社の営業部門と共に自社のお客様との打ち合わせに同席する頻度はどの程度でしょうか。私は、これまでの経験で何度か自社のお客様との打ち合わせを行った経験があります。が、それはすべての場合においてイレギュラーな内容(お詫びとか)です。今回のケースでは、関係を継続させるために定常的に行われることを前提としましたので、上記の例からは省きました。

● 設計部門の打ち合わせ回数について

もしかすると、設計部門の担当者は、調達・購買部門のバイヤーよりも、より多くサプライヤーの担当者との打ち合わせを重ねている可能性があります。外製比率の高い、組み立てメーカーの場合などが当てはまります。これも、あくまでも関係を維持するために定常的に行われる、設計部門でいえば維持設計として行われる打ち合わせを前提としたために、上記のような指数としています。

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