連載「調達・購買戦略入門」(坂口孝則)

25回にわたる連載です。調達・購買戦略の肝要を順に説明しています。

・技術動向分析

調達戦略、サプライヤ戦略があります。調達戦略は、その部品や部材について、どのサプライヤを選ぶか、あるいは、どのようなコスト削減方法をとっていくか、または、どうやって品質を向上させるか……などを述べたものです。サプライヤ戦略は、特定のサプライヤを取り上げ、どのようにコストレベルや品質や納期状況等を改善していくかを述べたものです。

ところで、その調達戦略とサプライヤ戦略ですが、当然ながら、私たちは技術という生き物を買っています。したがって、技術が固定的であればまだしも、技術はめまぐるしく変わりますから、 技術動向も把握したうえで調達戦略を練らなければなりません。

もちろん部品戦略あるいは、調達戦略のなかでも技術的な情報を調べるのは当然です。ただ、ここではより中長期的な技術動向を調べ、それを将来の調達戦略やサプライヤ戦略に結びつける観点からお話しします。

・技術動向調査は体制づくりから

技術ロードマップとは無関係のようですが、まず取り組んだほうがいいのは社内の体制構築です。月に一度は無理でも、少なくとも数ヶ月に一度は、技術軸からどのようなサプライヤが求められるのか、そして、どのサプライヤと共同開発をすべきなのか、という内容を調達部門と開発設計部門で話し合う場を作って欲しいのです。広い意味では、生産部門なども参加いただく必要があるかもしれません。

「図面を書き終わった時点ではもう遅い。図面を書く際に、調達部門が介在しなければいけない」といった議論がなされてきました。しかしながら、図面を書くタイミングではなく、より早い、要素開発の時点で調達・購買部門が介在しなければ、実質的にはサプライヤを決められない時代です。

よくR&Dといいます。R&Dとは、リサーチアンドデベロップメントの略です。開発購買的な考え方が、デベロップメントに介在しようとするものであったとすれば、これからはR、 すなわち初期のリサーチ段階や要素開発段階から介在しなければいけません。

・海外勢をお忘れなく

また読者の勤める企業は、多くの場合、日本に研究部門や開発設計部門があるでしょうから、責任は重大です。なぜならば、実質的には、日本で要素技術の開発を一緒に行ったサプライヤに、基本的にはグローバル生産を任せる可能性が高いからです。したがって、定期的に開発設計部門と協議を重ねたほうがいいのは、早い段階から、世界中の調達部門に情報伝達できる意味も指します。

企業によっては、日本の生産数よりも海外の生産数の方がはるかに多いケースもあります。その場合、決定は日本が行うが、影響は海外が受けてしまいます。したがって、早い段階での戦略の共有が、国内ではなく海外との事業所との関係において重要になってくるのです。

・会議で話すべきこと

そこで会議体のフォーマットとしては、次を話し合えば良いでしょう。

・市場ニーズの変化
・部品を組み込む最終製品の技術動向
・部品単位での技術ニーズ
・将来予想される数量
・技術的な懸念そして対策

もし上記の内容が、最終製品のタイプによって異なる場合は細分化して議論します。あるいは、上記では部品と書いていますが、現在ではシステム発注をするケースが多く、その場合はシステム単位での議論となります。

念のために説明しておけば、システムとは部品群をまとめ機能として発注するケースです。たとえば、電子回路の基板を考えてみると、基板とか電子・電気部品をそれぞれを発注するケースと、すでに部品を基板にマウンティングしてもらって購入するケースがあります。前者は部品の戦略となりますが、後者の場合はシステムとしての戦略です。

そして、部品軸であれ、システム軸であれ、「見える化」が重要です。次のような表を作っておきましょう。

まず縦軸はサプライヤの区別です。グループ内のサプライヤでやっていくのか、あるいはグループ外のサプライヤを活用していくのか、という違いです。そして横軸を見てください。まず大きく仕様と製造に分けています。仕様とは、要素技術だったりあるいは図面だったりと、製品の中身を指します。加えて、製造とはその製品を作る過程を指します。そのどちら進化させようとしているのか。

さらに仕様であっても製造であっても、さらに二分類しています。共同開発か活用か、です。これも文字通り、共同開発とはそのサプライヤと一緒になって技術を高めていくのであり、活用とはそのサプライヤがすでに持っている、あるいは開発中の技術を活用していく内容です。共同開発の場合は事実上、そのサプライヤのみにしか発注できません。逆に活用の場合は、そのサプライヤは、その技術を他に販売する可能性がありますから、自社のみの優位性とはなりえません。まさにこれこそ、調達戦略・サプライヤ戦略につながるとお分かりいただけると思います。

・技術勉強のための三つ

多くの技術的動向は、社内関係者からもたらされます。しかしながら調達担当者として日々の研鑽も必要です。技術の把握という意味で、三つあげたいと思います。「文献」と「展示会」と「実践」です。

(1)まず文献ですが、圧倒的に日経BP社のものが優れています 。
http://www.nikkeibp.co.jp/lab/mirai/pdfcatalog/index.html

「テクノロジー・ロードマップシリーズ」
「メガトレンドシリーズ」

この二つは読む価値があります。 とくに「テクノロジー・ロードマップ」は、記者が、大変わかりやすく噛み砕いて書いているので、文系の我々にも理解しやすい内容です。そしてこれらの利点は、自社に限らず、全世界の大きな流れをつかめる点にあります。個別の部品を調達していると、世界動向には疎くなりがちですが、そもそも製造業は世の中のニーズを掴んで製品を生産するはずです。また「メガトレンドシリーズ」も業界の趨勢を見る上で面白い読み物となっています。

ただし問題点はこれらの書籍が高いことです。一読の価値はありますが、金銭的に問題がある場合は、国会図書館のような大型図書館に行くことをお勧めします。今では蔵書検索ができますから、これらの本を有しているかすぐ分かるはずです。

「未来展望シリーズ」

ただこの「未来展望シリーズに」なると、私のような物書きや、コンサルタントは一読の価値があるでしょうが、現場担当者からすると、「ちょっと遠い世界」のような気もします。ですので、この未来展望シリーズは時間があったらで構いません。

(2)そして次に展示会です。展示会では、各設備メーカーや部品メーカーが、商品化の迫っているもの、あるいは商品化を予定しているものを中心として展示します。調達担当者であれば先方としてもビジネスにつながる可能性があるわけですから、話がしやすいでしょう。

ところでよくあるケースでは、調達担当者は既存品を安くするために、代替品を探しに展示会に行きます。そうすると既存品の技術は、展示する側からすると、訴求性があるわけではなく、すでに枯れつつある技術ですから、なかなかマッチしないのです。ですので展示会の使い方としては、既存品を安くする代替物を探すよりも、やはり将来の技術動向を摂取する意味で行くべきです。

(3)そして最後に実践です。私はとりあえず「いちど作ってみてみる」ことにしています。たとえば、3Dプリンターが出た際には、3Dプリンターは一体どんなものなのか、実際に作りに行きました。たとえば、渋谷や秋葉原では3Dプリントを簡単に実践できる店があります。

あるいは人工知能(AI)が話題になった際には、一度、人工知能のプログラミングを書いてみようと思いプログラミングのセミナーを受講しました。

両方とも概念だけ知っているのと実際やってみるのとでは大きな違いがあるのです。これは以前からそうでした。半導体の調達担当者をやっていた時はFPGAという書き換えが可能な半導体を担当していました。まったく意味がわからなかったので、この書き換えのプログラミングを勉強しに行ったのです。そうすると技術者や設計者がいっている意味がよくわかるようになりました。同じくプラスチックやプレスの調達担当者になった時も同じです。あるメーカーにお願いして金型のセッティングから射出のオペレーションを一緒にやらせてもらったのです。そうするとどこら辺に問題があって、どうやってコストを計算するか、感覚がわかりました。

「じゃあ、セラミックコンデンサを担当している人の場合は、セラミックコンデンサの生産を一緒にやってもらう」のはできないでしょう(一旦止めたら異常なコストがかかってしまいます)。したがって、実践がすべてに対して応用可能だとは言いません。しかし、セラミックコンデンサの場合でも何らかの電子工作をすることくらいはできるのではないでしょうか。

実際そのものに触って実験してみる。そうすれば多くの学びがあるものです。

 <つづく>

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