ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●これまでの購買・調達、これからの購買・調達時代への対応

調達購買部門は、企業内で事業運営に必要なリソースを外部から確保する役割をもっています。大きな経営環境の変化の中で、企業の事業運営の構造が変化しており、事業の変化に呼応した調達購買部門の姿を模索し実現させなければ、企業そしてバイヤーも生き残れません。これからの調達購買業務を考える上で、2つの大きな変化の要因と、導きだされる調達購買部門の厳しい立場を考えてみます。

☆バイヤーが直面する変化~外的要因

新興国企業の技術レベルが向上し、日本製品の優位性が失われつつある今日、日本企業は海外リソースの安さを求め、海外サプライヤーは日本企業の厳しい技術・品質面の要求を満たし、自社の対応力の高さをアピールし、自社の成長にも日本企業のノウハウを活用していました。

その結果、新興国にもグローバル企業が誕生しこれまで日本企業にサプライヤーとのポジションで提供してきた「安さ」を武器に直接市場に参入・成長してきました。海外サプライヤーは、日本企業を顧客にしなくても、自国で顧客を確保できるようになったのです。従来では、サプライヤーとして扱っていたのに、競合企業としてグローバルマーケットで戦わなければならなくなりました。日本企業では、弱電メーカーにこの傾向が強く表われています。その結果、日本国内では生産量が減少し、日本に位置する企業の「買い手」としての魅力が低下しています。

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この資料は、工業生産品の代表的な原料の購買量の推移を表しています。新興国の経済発展により、原料それぞれの各国での輸入量は増加しています。一方、日本の輸入量は、全体で増加しているのに反して減少しているか、全体の増加トレンドに追いついていません。

こういった事象の背景には、日本製造業の積極的な海外進出による影響もあります。日本の生産拠点が減少も、原料の購入量減少に拍車をかけているのです。これら二つの経済のグローバル化の中で、調達購買部門の新しい有り様を模索し、その中でバイヤーがどのように生き残るかを考えなければならないのです。

☆バイヤーが直面する変化~内的要因

現在、日本企業はグローバル市場の競争に対応するために、さまざまな対応をおこなっています。日本の高度成長をけん引した自動車・電機といった産業は新興国=マーケットに進出しています。新興国市場の価格競争に、日本国内の生産コストでは対応できないため、現地の安価なコストの効果を最大限に引き出す狙いです。

日本企業の海外進出で国内の製造拠点が失われると、調達購買部門では直接的に原材料や部品といった直接財を購入する仕事が失われます。原材料も進出先のサプライヤーから購入し、国内のサプライヤーへの発注量が減少します。実際、日本国内の企業数は1981年から2006年までで約20%減少しています。今、製造業の直接財購買は、発注量とサプライヤーの2つ「減少」問題を抱えているのです。

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☆日本の調達購買部門が不要になる日

グローバル化の進展による経済環境の変化によって、製造拠点が海外に進出し現地化を進めた結果、日本の調達購買部門が原材料を購入する必要性は徐々に薄れています。「購入」する機会も量も少なくなっているのです。したがって、これからの環境変化に対応してゆくためには、従来おこなっていた「どこのサプライヤーから購入するか」だけでなく、どこで購入するかといった部分を掘り下げ、グローバル経済を視野に入れた最適最良の調達購買の仕組み構築が必要です。これは、いうなれば「買わない」調達購買部門のあり方を模索につながるのです。

それでは「買わない」調達購買部門とは、どのような業務をおこなうべきでしょうか。次の3つの考え方を示します。

☆調達購買プロセスの前倒し

従来の調達購買部門では、要求部門から提示される仕様や条件によって、サプライヤーを取捨選択していました。一方、仕様と条件が決まった段階で、購入額の80%は決定すると言われています。グローバル経済の激烈な企業間競争に生き残るためには、仕様と条件の決定プロセスへの調達購買部門の関与が必要です。業務プロセスのポイントを前倒し、サプライヤー選定と購入価格への影響力の拡大、実質的な決定権を持たなければなりません。

☆コストダウン思考からの脱却

調達購買部門のもっとも重要な責務は購入価格の引き下げです。この考え方は、社内関連部門からの期待、そして調達購買部門内の認識としても疑いはありません。しかし一度決定した仕様や条件による購入価格に対しておこなうコストダウン活動は本当に効果的でしょうか。一度決定した仕様や条件の見直しは、膨大な労力と、当事者間の調整、購入品の検証が必要です。購入価格とは、明確な仕様や条件の見直しがない限り変更の余地がない位、明確で確固たる根拠を持った数値であるべきです。このような考え方の実践は調達購買部門に厳しい内容かもしれません。しかし、いったん価格が決定した後でコストダウンするとの考えは、製品ライフサイクルも短縮化している今、利益確保を難しくする要因でもあるのです。

☆標準化・仕組み化

調達購買部門の業務には、見積依頼、見積書受領、注文書発行といった事務処理が多く存在します。グローバルレベルで人件費の高い日本人は、より付加価値の高い業務への対応能力を持たなければ、グローバル競争では生き残れません。そのためには、組織的な事務処理能力を高め、付加価値の高い業務に取り組める時間を増やす取り組みが不可欠です。

まず、従来おこなっていた業務の標準化や仕組み化を推進し、時間あたりの業務処理量を向上させます。その際、IT技術を活用したシステム化、ペーパーレス化も活用します。その結果、生み出された時間を、サプライヤー評価や、購入仕様や条件決定への関与といった付加価値の高い業務に費やします。この部分は、根性論やガンバリズムでなく、業務プロセスから無理・無駄の除去から始めます

(つづく)

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