ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●値上げ対応 値上げ対応の3つのポイント~理解と決心、そして行動

これまでの内容をまとめます。最初は、値上げ対応に関する「理解」です。

一般的な値上げ要請に使用される文書の例をお伝えしました。このような文書が実務の場で使用されるのは、理由があります。我々の普段一緒に仕事をしているサプライヤーのセールスパーソンは、値上げを円滑で論理的に実現する方法を知らないのです。

値上げを実現させる方法論を知らないために、バイヤー企業が値上げ要求に理不尽に抵抗した場合、一方的に押し切るような方法に頼らざるをえないと、現時点での営業スキルが不足していると理解しなければなりません。値上げ要求を受けた場合の最も避けるべき対処として、要求の放置や無視してはならないとしました。これは、無視や放置が、サプライヤー側が唯一持っている値上げ実現手段である「一方的な押し切り」に、格好の理由・根拠を与えてしまうのです。

したがって、サプライヤーから値上げ要求を受けた場合は、ある程度実現へ向けたプロセスを提示して、サプライヤーを導く必要があります。値上げ方法をサプライヤーに教え、導くとは、バイヤーとしては抵抗が大きいかもしれません。しかし、値上げの実現方法をサプライヤーへ教えて、プロセスを管理して値上げ要求への対応を管理すれば、値上げを受ける、あるいは受けない。受ける場合でも、値上げ幅に妥当性を持つための合意点を見いだす最短距離となるのです。値上げ対応をおこなうためには、まずサプライヤーが値上げの実現方法を知らない/理解していない現実を「理解」しなければならないのです。

続いて、値上げ対応をおこなう場合、バイヤーとしておこなう「決心」です。

値上げ実現の方法を知らないサプライヤーに、値上げ実現の手順を教える必要性を述べました。また、もっとも避けるべき対応として、無視や理由なき値上げ拒否姿勢を挙げました。その上で、サプライヤーからの値上げ要求に対応するには、次の3つをサプライヤーから提示されたら、値上げを受け入れる「決心」をします。バイヤー企業として「決心」するためには、担当バイヤーの個人的な決心、そしてバイヤー企業として「決心」も必要です。そのためには、値上げによる影響を最小限にする調達購買部門の努力だけでなく、具体的な影響額を調達額の見通しとしてバイヤー企業内に周知して、了承を得なければなりません。これは、言葉で書く以上に社内的には厳しい反応が想定されます。しかし、ここでなぜ値上げ要求がサプライヤーより行なわれるのかをもう一度、考えてみます。

現在想定される値上げの要因について、次の3点を挙げました。

1.経済環境~円高、原材料費高騰
2.市場要因~原材料市況の高止まり、原材料メーカーの寡占化
3.財政政策要因~インフレターゲットの設定

いずれの理由も、サプライヤーに固有の責任はありません。もちろん、バイヤー企業の責任でもありません。したがって、基本的には双方回避したいはずです。しかし、責任はなくともサプライヤー企業の損益に影響があるから、値上げ要求で、バイヤー企業への影響が顕在化するのです。

バイヤー企業、サプライヤー共に、直接的な責任はありません。しかし、バイヤー企業として、闇雲な回避策である放置・無視は、バイヤー企業納得を得ないまま値上げが実現される最短距離です。サプライヤーからの値上げ要求に正しく対処するためには、次の三点が確保されたら、値上げを受け入れる「決心」が必要なのです。

①明確な値上げの根拠
②論理的で、妥当性のある説明
③値下げする条件の提示

最後に、値上げ要求の背景を理解して、値上げ受入を決心したら、後はサプライヤーからの値上げ要求に対応して、具体的に「行動」するしかありません。具体的な行動内容は、次の3点を指します。

① 値上げ実現へのハードル設定
サプライヤーからの値上げ要求を、これまでの内容を踏まえて次の4つのステップに分割します。

<クリックすると別画面で表示します>

それぞれのステップから、次の段階へ移行する場合には、具体的なハードルを設定します。値上げ意志を表示する前は、申し出そのものを阻止する活動を行ないます。具体的には、QCDにまつわる課題解決に共同して取り組んで、コストアップとなる値上げが言い出せない雰囲気を作り上げます。QCDにまつわる改善活動は、コスト削減活動も含まれますので、日常的な改善活動の中で値上げの吸収に取り組むのです。

② 「口頭意志表示」以降は積極対応
2つめのステップである「サプライヤーからの口頭による意志表示」意向は、値上げ対応ついておこなった「決心」をベースに、具体的に「行動」します。ここで各ステップに設定するハードルは、口頭で値上げ意志表示があった場合は、文書での申し入れを。文書での申し入れに対しては、内容の厳格化によって、妥当性のある値上げ幅の設定と、バイヤー企業とサプライヤーの値上げに関するコンセンサスの醸成を図ります。

③ 良好な「関係性の構築」で値上抑制
値上げ要求に対して、バイヤー企業としてサプライヤーに逃げずに対応すれば、双方の関係性は向上します。良好な関係をベースにして、サプライヤーにバイヤー企業も納得した上でなければ値上げできないとの意識を植え付けます。サプライヤーと値上げの内容について調整の積み重ねが、値上げ幅の最小化への近道となるのです。

実態として、原材料価格の高騰や円安によって、価格アップとなる条件がある中、サプライヤーへ積極的に対応する事で、値上げを申し入れ件数全体の70%について、値上げ要求の断念を目指します。断念とは、次のステップに進めないことで実現させます。このような状況を生み出すためにも、サプライヤーとの良好な関係性の構築は、値上げ抑制に不可欠なのです。

<つづく>

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい