バイヤー現場論(牧野直哉)

<非日常的な状況には「対応」で差をつけ生き残る!>

調達・購買部門は、多品種少量生産と短納期対応への対応と同時に、コストダウンや、環境・CSR(企業の社会的責任)を実現させなければなりません。従来は「広く浅く」と言われていました。しかし近年、対応しなければならない新たな課題は、全般的に深さを増している上に、新しい価値観を踏まえた対応を余儀なくされています。業務環境は拡大し、内容は厳しくなっています。

そういった状況下では、その場しのぎではなく、業務プロセスそのものを見直し、厳しい経営環境にシステマチックに対応しなければなりません。目の前にある対応しなければならない課題は、必ず近い将来再び対応を余儀なくされます。現在増加している課題は、一過性ではありません。力仕事で処理するよりも、初回の反省を次に生かして、効率性を追求すべきです。

1.取引辞退の申し出を受けたとき

近年の日本は、倒産によって事業が続けられなくなる企業よりも、経営者の意志で事業を辞める「休廃業・解散」する企業が多い状況が続いています。2015年のデータでも、倒産件数が8,517件に対して、休廃業・解散件数は、23,914件にものぼっています。供給断絶する意味では、発生する事態は倒産と変わりません。しかし、供給断絶へと至る前段階が大きく異なります。休廃業・解散にともなう取引が停止される事態を想定した対応を学びます。

①休廃業・解散する理由

企業が休廃業・解散する最大の理由は、経営者の企業経営意欲の減退です。もっとも経営意欲に影響を与えるのは、後継者不在でしょう。中小企業の経営環境は厳しく、事業運営面では新興国企業の追いあげを受け、人口減少の影響によって、将来的には従業員の確保も困難が予想されます。こういった経営意欲を減退させる要因は、あらゆる側面で顕在化しています。バイヤーも訪問すれば容易に感じとれます。サプライヤの経営意欲減退で自社の事業運営を危うくさせる事態を招かないように、感じたマイナスの印象は、サプライヤに確認し必要に応じた対応します。

②事前察知方法

休廃業・解散へと至るサプライヤは、事前にさまざまなサインを示します。最終的には突然到来する倒産と異なって、事前に申し出を受けるでしょう。申し出の時期が問題です。供給停止するタイミングによっては、安定した供給の継続が危ぶまれる事態であり、早急に代替のサプライヤを設定しなければなりません。次の3つのポイントで順番に問題を確認します。

1)5S

経営意欲の減退が、もっとも顕著に表れるのが、社内の整理整頓に代表される5S管理です。これは製造現場だけではなく、オフィスにも表れます。サプライヤを訪問し、製造現場が汚れていたり、整理整頓がおこなわれていなかったりといった印象を受けた場合は、それとなく理由を確認します。過去の訪問時と比較して汚くなった、雑然さ度合いが進んだといった過去と比較した好ましくない変化の原因を探ります。しかし、サプライヤへ確認しても、明確な理由の回答はない場合が多いでしょう。仮に経営意欲を失っていたとしても、顧客にはそんな素振りは見せません。したがって、以前と何も変わっていませんよ、と答える回答者の表情を注意深く観察します。多忙をきわめており、一段落したらおこなうといった意欲を見せるの。それとも、しょうがないと諦めの表情を見せるのか。回答する表情から経営意欲が感じられない場合は、当面の品質が維持されるかどうかの評価とともに、中長期の生産が維持されるかどうかの確認を進めます。

2)従業員の平均年齢

従業員の平均年齢は、会社の寿命とも密接に関係があると言われています。現在日本人の平均年齢は40歳代中盤です。したがって、従業員の平均年齢が50歳に近い、それ以上の場合は、若年層の雇用状況と配属状況を確認します。サプライヤ内の各プロセスに、事業を維持するために必要となる人員は配置されているかどうかがポイントです。平均年齢が高いのはあくまでも判断基準ではなく、確認作業をおこなうきっかけです。実際の従業員の配置を確認して判断します。

3)経営者の年齢と後継者の存在

現場が5S視点で乱れており、従業員の平均年齢も高く、各プロセスにおける世代間の引き継ぎができる人員配置がおこなわれていない場合、サプライヤの社長や上位役職者に事業の継続意欲を、中長期的な供給継続能力に絡めて確認します。メールや電話ではなく、、直接話を聞く場を設けます。意欲が減退していても、事業を辞める決断をしていない場合、問題ないと回答してくるはずです。しかし、これまで1)、2)で確認した内容を伝え、自社として不安を感じている旨を伝えます。意欲の有無に明確な回答がない場合は、将来的な供給継続に不安有りと判断します。

③供給ソースを維持する方法

同じ業種や製品を別のサプライヤが生産できる場合は、代替生産の可能性を模索します。サプライヤ同士のつながりがある場合も想定して、注意深く内々に打診します。まず、生産可否だけを確認しましょう。確証のない別のサプライヤの内情を、安易に別のサプライヤに伝えるのは避けます。念を押しますが、単純に生産可否を確認します。企業が継続するかどうかは、自社にだけでなく、サプライヤで働く従業員にも大きな影響を与えます。そういった点への配慮は忘れずに、しかし厳格に供給継続の可能性を計ります。こういった確認の結果、事業を継続しないと吐露された場合は、その時期を確認し自社側の準備を進めましょう。

<つづく>

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