ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●買わないバイヤーはなにをするのか ~グローバル調達

経営環境の変化によって、購入する「機会」と購入「量」の2つの減少に直面する調購買部門。一方で、日本以外に目を向ければ、海外進出によって新たに「グローバル調達の実践」との課題へ対応しなければなりません。

☆グローバル企業化の過程における調達購買部門の役割

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上の表は、日本企業のグローバル対応を8つのタイプに分類しています。この8つの分類は「グローバル調達とはなにか?」を追い求めた結果、たどり着いた8つの形です。私は、一つのテーマに一つの定義付けをおこないます。グローバル調達を考えた時も、いろいろ考えをめぐらせました。調達購買部門で働く友人にもアドバイスを求めました。その結果、なんとか上の表の8類型まで絞り込めたのです。

というのも「グローバル調達」との言葉自体、あまりにも定義が曖昧なのです。ある人に聞いた内容は「海外調達」だし、また別の人は「現地調達」として語る人もいる。あるいは、社内的には「国境」との概念が存在しないような企業では、海外調達も現地調達もなく、世界各国での調達リソースの拠点間融通をおこなっている。グローバル調達を語る上では、この当事者間に存在する認識の違いに着目する必要があると考えました。そして、この考えに立つ理由がもう一つあります。

前段の最後に述べた例を考えてみます。世界各国に拠点を構え、拠点間での購入品を相互に融通し、世界最適化調達を実現させている。それだけをグローバル調達と捉えてしまうと、多くの日本企業にとって、グローバル調達に取り組む際のハードルが高くなってしまいます。一般消費者向けの製品であれば、製造場所と販売地を同じくするような製販接近の考え方にもとづいたグローバー調達を目指すべきです。しかし、企業の設備投資需要をターゲットにした製品の場合は、必ずしも製販接近がベストではありません。上記の表は、そういった、現時点では日本国内企業が取り組むグローバル調達の姿を明らかにする、そして国内企業がグローバル企業に発展するための調達購買部門の採るべき施策を明らかにしなければならないとの結果によるものです。それでは、上記表の記載内容を解説します。

1) 販売市場

これはグローバル調達に取り組む企業の市場を表しています。中国に抜かれたとはいえ、日本は引き続き世界第3位の経済規模です。したがって、販売の市場を日本だけにした場合の、調達面でのグローバル化のあり方を模索するための分類です。販売市場が日本国内だけでも、海外サプライヤーからの調達、いわゆる海外調達もグローバル調達とします。

2) 自社リソース

これは自社の拠点を指します。メーカーであれば、製造拠点が日本国内だけなのか、それともIPOや製造拠点が海外にも存在するのか。海外に拠点を持って、製品を日本国内だけに販売するのでも、海外の拠点が調達活動をおこなえば、現地調達という名のグローバル調達の実践になります。

3) サプライヤーソース

これは現時点でのサプライヤーの所在を指します。日本国内のサプライヤーだけなのか、それとも海外のサプライヤーからも購入をおこなっているのか。これは、どんなグローバル調達を目指すのかを考える上での重要な現状確認です。

これら3つの要素を2つに場合分けすると、上記表になります。皆さんがグローバル調達について、なにかしらの問題意識をもった時、またグローバル調達に取り組まなければならなくなった場合は、まず自社が現在、上図の8つのタイプのどのタイプに位置していて、将来どのタイプを目指すかを明確にします。グローバル調達に関する「現在の姿」と「あるべき姿」が明確になった時点で、具体的な課題を明らかにし、解決策を実行に移します。

☆グローバル調達の実践

グローバル調達は、次の3つで構成されます。

(1) 海外調達

購入する国と異なる国のサプライヤーから購入します。従来、日本の調達部門がおこなってきたグローバル化の最初の取り組みです。

(2) 現地調達

購入する国と、同じ国のサプライヤーから購入します。日本の調達購買部門が日本のサプライヤーから買うのでなく、進出先での購入を指します。

(3) 購入品の拠点間相互融通

日本国内と、海外進出先の双方で調達購買活動をおこない、相互に購入品を融通します。海外進出先でも独自に調達購買活動をおこなって実現されます。

これら3つの取り組みによって、グローバル調達が実現されます。どの取り組みを、どのような組み合わせで行うのかは、先に述べている販売市場や自社の拠点の状況によって企業としてのグローバル展開方法が異なります。自社の状況を正しく掌握して、全社の経営方針の方向性に合致したグローバル調達の姿を決定します。

☆意志決定はどうするか

グローバル調達の具体的な3つの取り組みは、企業リソースの調達購買部門への投下度合いが、(1)から(3)になるにしたがって大きくなります。(3)の場合は、国ごと、あるいは拠点ごとに調達購買機能を持って実現されます。裏を返せば、各拠点で同じ購入品への取り組みを別々に行う事態が発生する可能性があります。この場合は(1)から(3)の進展とともに、拠点間での情報の共有化を進め、円滑で効率的なグローバル調達を実現するために、最適な意志決定を行う仕組みが必要になります。全社での社内リソースの効率活用を踏まえた意志決定を行います。

意志決定方法は、それだけで一冊の本となるほどに、重要なテーマです。これを文化や商習慣の異なる国に所在する拠点との間で適切に実施するのは、非常に困難です。ここでは、調達購買部門間での意志決定に関するポイントを3つお伝えします。

1) 同じスタートラインの維持

もともと日本国内に拠点を持っていた企業が、海外に製造なりIPOの拠点を設ける場合、購入可能なサプライヤーの絶対数は日本が多い状態から始まります。加えて、国内のサプライヤーには、長年の経験と取引の実績もあります。日本と海外の二極での調達活動が開始したばかりであれば、時系列的に日本のサプライヤーに優位性が出てしまうのはやむを得ません。しかし、二極での調達体制を機能させるのであれば、同じタイミングで調達活動をスタートさせます。日本でダメだから海外で、とのスタンスではいつまでたっても調達の中心が日本となりますし、海外拠点の調達購買部門のモチベーションにもマイナスの影響を与えます。同じスタートで、同一条件での比較検討活動が必須です。

2) 調達購買に関する基本情報の共有化

日本企業ですからやむを得ない面もあります。しかし、日本側の調達内容は、海外拠点と過不足なく同じレベルで共有が図られなければなりません。したがって、図面やバイヤー企業の要求仕様書は、最低でも日本語と英語の併記、過去の調達データも同じように最低限でも英語で表現します。「最低限でも」とは、できれば進出先の言語が、現地のサプライヤーには一番理解しやすいのです。

またこういったデータは、業務支援システムで時間差なく日本と進出先拠点のバイヤーに提供されなければ、円滑な二極もしくはそれ以上での調達活動は実現できません。日本企業であれば、まず現地へ言葉で歩み寄らなければならないのです。

3) 意志決定プロセスの共通化

これまで述べた1)2)の条件をへて、日本と現地のサプライヤーから見積書が入手できたとします。ここからが問題です。日本と進出先の双方が納得する意志決定をおこないます。もちろん、日本と進出先の2社購買との決定もアリです。決定内容に双方が妥当性を見いださなければなりません。日本側のこれまでの経験とつきあいがあるから、といった理由だとしても、戦略的にこれは日本で決定するとの明確な理由を進出先の調達購買部門に提示して納得してもらいます。もっとも避けなければならないのは、進出先のバイヤーが、どんな理不尽な決定であっても、日本側には異論が唱えられないと「あきらめ」でしまう状況なのです。

<つづく>

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