ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
ほんとうの共同購買
私の家の近くに、米系資本が経営する量販店がある。倉庫然とした売り場には、食品、電化製品、衣類、薬品とあらゆる生活必需品が並んでいる。一般的な量販店と異なるのは、買い物をするために年間数千円の会費を支払う必要があること、そして単価の安価な製品の一(いち)販売単位の量が多いことだ。
そんな量販店が開業した当初、私の周囲では複数の家庭が連れ立って買い物をする光景が多く見られた。核家族化が進み、その量販店での一販売単位では、何もかもが多すぎる。肉はキロ単位だし、クロワッサンはいったい何個なのだろう、といった具合だ。なので、同じものを複数の家庭で購入し、家庭ごとに分けて、一個あたりの単価を下げようとの試みたのである。
そして今、周囲では複数の家族で連れ立って買い物をするとの話を聞かなくなった。でもその店の人気は衰えていない。休日など駐車場から出るのにさえ苦労することもしばしばだ。複数の友人から聴取したところでは、自分の家族だけで行くことが多くなったという。理由を聞いてみると、こんな答えが返ってきた。
「確かに安く買えるけど、自分が欲しくないものを、付き合いで買わなきゃいけないこともあるからね」
例えば、パン一つとっても、クロワッサンがあり、バケットがあり、マフィン、食パンもある。一つ一つの量が多いので、全てを購入して、それぞれ四等分するのも、夫婦と子供の家庭では多すぎる。だから、どれかを選ぶ必要があるが、残念ながら、皆が意思同じくクロワッサンを選ぶことができないということだ。ここに、共同購買・調達の抱える問題が浮き彫りになっている。
この原稿を書いている今日時点でも、共同調達・購買への取り組みがニュースとして報じられている。共同調達・購買の仕組みを、そのシステムと共にユーザーへ提供することを生業としている会社もある。ソリューションの提供を受け、その代償を支払って尚、メリットがあるのだから、共同調達・購買の取り組みを行っていない会社から見れば、魅力的に写るはずだ。
共同調達のポイントは、購入量を増やして、サプライヤーへの影響力を増すことで、仕入れ時点での合理化を推進することだ。バイイングパワーの増大により、購入時の条件を有利にするものである。日本では、昭和30年代半ばに日本の大多数を占める中小企業と大企業の格差是正の一手段として、政府の中小企業対策として推進されてきた。今から50年も前の話である。全国にいろいろな共同組合が組織され、共同組合事業として推進されてきた。今でも、共同購買や共同調達といったキーワードでネットを検索すると、全国の共同組合がヒットする。日本では、既に全国に共同購買を行う組合が存在するのだ。
そして今、中小企業の不足するバイイングパワーの補完手段として推進されてきた共同購買は、大企業同士が共同して行う取り組みとして、一方で同じものを欲する個人が協調しておこなう動きとなっている。ここでは、企業同士のおこなう共同購買のあるべき姿、実施上の問題点への解決策を論じてゆきたい。
共同購買について一般的に語られるメリットは、スケールメリットの追求による、効率化・バイイングパワーの強化に尽きる。これは先に取り上げた、量販店での大量の購買によって、一個あたりの単価が下がることで証明されている。それまで個々の企業が別々に購入していたものを、一つにまとめることで、購入側に有利な条件を引き出す取り組みである。
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ここで問題になるのが、先のパンの例になる。基本的にクロワッサン、バケット、マフィンに食パンといった「腹を膨らませる」という欲求を満たす共通性を持っているにも関わらず、購入者の嗜好によって共同調達の取り組みが瓦解することだ。価格メリットよりも個人の嗜好の方が強くなってしまう。まったく同じ問題が、企業同士がおこなう共同調達でも発生する。この共同調達を行う上で必ず発生するハードルを、どのようにクリアするかで共同調達という取り組みの成否が決まるといっても過言ではない。
そしてもう一つ。購入側が一つにまとまること、それだけでバイイングパワーが強化され、過去との比較で有利な調達が進むかといえば、そうではない。以下の図のように、サプライヤーが従来のままで複数存在すれば、サプライヤー側に従来以上のメリットを出す理由がない。厳密に言えば、窓口が一つになることで、サプライヤー側と購入側の営業・購入経費は削減される。しかし共同購買で期待されるのは、購入費そのものの削減だ。共同購買側がまとまったといっても、購入量が合算して従来と同じでは、期待されるメリットは生まれないのだ。したがい、購買側がまとまるのと同時進行で、サプライヤー側も集中させるとのアクションを取らなければ、ほんとうのメリットは生まれないのである。
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サプライヤー側の集中が伴わないと、共同購買のほんとうのメリットが得られない。では、サプライヤーをどのようにまとめるのか。ここで問題になるのが、購入側の従来購入していた製品の「差」である。仕様の「差」もあるだろうし、条件の「差」も存在する。そしてなんといっても購入価格にも「差」が存在するだろう。そんな数多存在する「差」を超えて、どのように共同調達のメリットを獲得するのか。ここにはいくつかの越えねばならないハードルが存在するが、最初に仕様に存在する「差」である。そして、ハードルを越えるためのキーワードは「捨てる」だ。
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共同購買実現の為に必要なこと、それは偏に「まとめる」ことだ。その部分が協調させるが故に、何か購入窓口をまとめる、購買・調達部門のみで取り組み、完結できる様に見られがちだ。しかし、まとめる過程で、仕様差を超える為には、購入品の仕様に関するこだわりを捨てる必要がある。製品の基本仕様のみをシンプルに追求し、自社にとってやりやすい、買いやすくするためにサプライヤーへ求めていた仕様を捨てる必要があるのだ。この「捨てる」作業には、購買・調達部門のみでは対応しきれない。技術・設計部門を含めた活動とする必要があるのである。過去から現在まで、いろいろな会社で「標準化」へのアクションがとられている。社内に存在する製品に横串を通して仕様を共通化するのにも、多くの困難が存在する。共同購買実現のプロセスでは、共同した他社とこの標準化のプロセスをおこなう必要があるのだ。
<次回へつづく>