ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

<7 利益を出すコストダウンと改善手法>

1.調達・購買部門に必要なコスト管理
調達・購買部門による購入費削減といったコスト管理への取り組みは、これまでにもおこなわれてきた重要な機能の一つです。価格競争の激化によって競争環境がさらに激しくなる今、社内関連部門からの期待も高まり、その重要性はさらに高まっています。本章では状況に応じたコスト管理と削減の手法を学びます。

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☆営業の「実態」をつかむ
調達・購買部門でサプライヤから購入した製品やサービスは、最終的に営業部門によって顧客に販売されます。コストを管理する、あるいは削減活動を推進する上で、その必要性を判断するために「自社(バイヤー企業)のどんな製品やサービスが、どれくらいの売価で、どの程度の利益を稼いでいるか」を理解します。この点を理解は、調達購買がコスト削減活動を進め方を考えるうえで非常に重要です。一般論としての「価格競争が激化」だけでは、事実であったとしても起こっている状況に適した活動にはつながりません。

また、調達・購買部門でおこなうコスト削減活動は、サプライヤの協力なしには実現しません。サプライヤにコスト削減の必要性を理解してもらうためにも、自社(バイヤー企業)としてなぜコスト削減が必要なのか、その根拠の明確化は不可欠です。

「コスト削減の取り組みは永遠に続く=あたりまえの活動」そのような考え方も一理あります。この理由だけで、サプライヤがコスト削減に取り組むケースは、自社(バイヤー企業)の事業と発注内容(多くの場合はボリューム)に大きな魅力が存在する場合に限定されます。本来営業部門は売上げと利益で業績が評価されます。顧客からのコスト削減要求への対処は、結果を出しても直接的に評価されません。これは、多くの営業部門が、コスト削減は調達・購買部門の仕事といった、投げやりな態度に顕著です。そういった態度に腹を立てるのではなく、コスト削減の背景や、ビジネスの実態をまず聴取します。そういった状況を、まず自社(バイヤー企業)側で理解し、コスト削減の必要性の根拠を明確にし、サプライヤへコスト削減の必要性を訴える根拠に活用します。

☆コスト削減対象の優先順位の決定
調達・購買部門でサプライヤから購入する製品やサービスは、すべて適正な価格で購入しなければなりません。ここで「適性な購入価格」はどのように判断するのでしょうか。それは、調達・購買部門にとってだけでなく、最終的には自社(バイヤー企業)販売時の価格を踏まえたうえで「適正」でなければなりません。

調達・購買部門で購入する際は適正だったとしても、自社(バイヤー企業)内の複数のコスト要素が合算された結果、市場価格との間にミスマッチが発生する場合があります。コスト削減活動は、そのようなミスマッチを解消にも貢献する活動です。しかし、すべての購入品に同じく対応するのは現実的には不可能です。費やした時間に対して効果が大きいコスト削減活動を優先した方が、サプライヤと社内関連部門の協力を得やすくなります。

優先順位の決定には、売上げと損益の両方を合わせ考えなければなりません。コストを下げるために必要な手間と時間は購入量とは関係なく発生します。したがって購入量が多いほどに効果が大きくなります。営業部門や社内関連部門からの指示内容に従ってコスト削減を進めるのでなく、調達・購買部門でより大きな効果の期待できる案件に高い優先順位をつけて対応します。調達・購買部門のリソースも、より企業損益改善に貢献できる部分に集中して、その効果を最大化しなければならないのです。

☆コスト削減の「代償」を求める
先日、顧客から10%の値引きを求められたと、対応策を検討する会議に出席しました。検討ではなく、調達・購買部門として、どのようにコスト削減を進めるのかについて回答を求められました。これまでの経験でも「顧客名+値引き率」しか情報のない会議に、何度召集されたでしょう。

営業品目と購入品目が同じ、あるいは近い場合は、こういった「顧客名+値引き率」で、対応策の検討に、事足りるかもしれません。私は営業担当者に、こんな質問を返しました。

①販売品はなにか。1つなのか、複数の種類で全てが対象なのか
②コスト削減対象品の損益状況。儲かっているのかいないのか
③顧客がコスト削減を要求する理由。顧客企業の方針か、顧客の購入担当の思いつきか
④営業としての対応方針。利益を削っても顧客の要求に応えるのか、対応できないと断る可能性はあるのか
⑤将来的な購入数量見通しは増えるのか、現状維持なのか。減少する可能性はあるか
⑥顧客は1社購買か、複数社購買か

私は顧客からのコスト削減要求への対応を協議する会議では、営業部門に必ず①~⑥の質問をします。私は価格を下げるには、相応の理由が必要だと考えています。上記の質問に答えられる営業担当者は、しっかりと顧客の意向を理解しています。しかし、答えられない営業には「もうちょっと背景を調べてもらえないか」と御願いします。コスト削減を要求するわけですから、この程度の質問には答えるべきだし、回答によって調達・購買部門の取り組みの方向性にもヒントが得られるのです。

(つづく)

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