サプライヤが倒産したら?に真面目に答える(坂口孝則)
前回、サプライヤが倒産したらどうすべきかについて答えました。調達・購買部門としての肝要は、サプライヤが倒産しないようにすることが先です。また、サプライヤの倒産を予想することで、先に手を打つのが基本ではあります。
しかし、それでも倒産してしまったときに、サプライヤからブツを奪取するのがリアルな対応です。前回は、このような区分けを紹介しました。つまり、ブツの所有権が自社にあるのか、あるいはサプライヤにあるのかで、「ビビり具合」が異なるということです。
(前回の引用はじめ)
1.所有権がバイヤー企業にある場合
所有権がこちらにあるのですから、恐れることはありません。注意は、所有権がバイヤー企業にあるのに、管理上はサプライヤの工場敷地内にあります。ですので、サプライヤが倒産したときに、あやまって債権者や管財人が処分しないように、「(無償支給材などと)見た目でわかるようにしておけ」と日頃から指示しておかねばなりません。
ただ、とはいえ、現実的には所有権がバイヤー企業にあるのに、勝手に取り押さえられるケースはあります。その際は、弁護士などを使って、正当な権利を「第三者申し立て」として伝える必要があります。
2.所有権がサプライヤにある場合
有償支給の材料などは、サプライヤがすでに所有権を有しています。倒産したらあきらめるのも一手です。ただ、倒産したら引き上げにいくことも一手です。ただ、所有権はあちらに移っています。これは代金の支払いの有無ではないのです。あくまで、契約書が「いつ所有権を移す」と宣言しているかによります。したがって、いったん移ってしまった所有権について、先方の許可なしに引き上げられません。ですので、このようなときは、簡単な覚え書きでもかまいませんので、「いまから引き上げるぞ、いいよね?」と合意をとる必要があります。その場でサインをしてもらうのです。
(前回の引用おわり)
さて、さらに実務的な補足をします。
これは弁護士のかたと話していたときに聞いた内容です。その先生に電話がかかってきたそうです。
「先生、サプライヤが倒産しました。金型ですとか、材料とかが、まだ彼らの倉庫内にあります」
「所有権はどうなっているのですか?」
「金型も材料も、所有権はあちらです。ただし、金型も材料もこちらが販売した形になっており(有償支給)、その対価はまだサプライヤが支払い終わっていない状態です」
「つまり、債権が残っている状況ですね。それなら、まずはサプライヤの倉庫で、それを押さえてください」
「それが困ったことに、サプライヤが夜逃げをしてしまって」
「かまいません、御社の住所などの連絡先を書いて、張り紙をして、引き上げてください」
「しかし、倉庫に鍵がかかっているんです」
すると、先生は、こう答えたそうです。
「もう一度お聞きします。鍵はかかっているんですか?」
「ですから、鍵がかかっているんですって」
「いや、もう一度お聞きしますよ。鍵はかかっているんですか?」
「だから何回お聞きになるんですか」
「これ以上、弁護士にいわせないでください。鍵は……」
「あ、なるほど、もう一度、見てみます」
まあ、つまり、先生は鍵を破壊しろ、といったんですね(笑)
「先生、鍵が開いていました!」と報告を受けたそうです(笑)。先生いわく「まあ、器物損壊罪っていっても、証拠はないし、そもそも訴えるひとはいませんからね」とのことでした。
どんなときでも、自社は負けないように現実的な手法を取る。これが重要です。
<了>