ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

<7 利益を出すコストダウンと改善手法>

2.問題なのは「見えない=わからない」~見えるコスト削減

コストを管理し削減を進めるためには、まず現時点での正しい実態を反映したコストを理解しなければなりません。調達・購買部門における意志決定にも、社内関連部門へ説明する根拠にも活用するために「見える=容易に理解できる」コストを掌握します。

☆時系列の分析

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過去と現在の購入価格の推移に変動があれば、その根拠を明確にします。購入価格の推移と共に、購入量の変化も合わせて確認します。時系列で購入価格に変化がある場合は、サプライヤの内部要因が原因か、それとも外部要因(市場価格や、需要動向の変化)が原因か、はたまた自社(バイヤー企業)に原因があるのかを判別します。購入数量の変動がある場合、数量に応じ適した価格レベルかどうかも確認します。数量が増加しているのに購入価格が同じ場合は、購入数量が増加する前との比較で割高な価格で購入している可能性があります。一方、当初サプライヤに提示した数量よりも購入量が少なかった場合の対処方法も、サプライヤからの指摘がなくとも検討し準備しておきます。

☆販売単位ごとの分析
サプライヤごとや購入品目ごとに購入価格を集計し分析するのに加え、自社の販売単位ごとの購入コスト分析を加えます。販売単位とは、製品や機種名ごととの意味です。この「販売単位ごとの分析」は、これは、コスト削減活動の対象とする購入品を特定が目的です。前号(144号)で説明した優先順位の決定に欠かせない資料です。販売単位ごとの分析では、全体コストに含まれる購入費の割合がどの程度か。販売価格とコストのミスマッチの割合から、どの程度のコスト低減額をターゲットにするかを決定します。

この「販売単位ごとのコスト分析」は、本来調達・購買部門の仕事ではありません。財務・/経理部門だったり、営業部門だったり、企業によって異なります。しかし、調達・購買部門が自社(バイヤー企業)のコスト競争力向上に貢献するには、この分析結果を改善しなければなりません。したがって、社内関連部門が集計した数値を調達・購買部門として理解したうえで、改善の糸口となる問題意識をもたなければなりません。

皆さんは、自社(バイヤー企業)のコスト構造を理解していますか。購入品費が総コストに占める割合や、自社(バイヤー企業)の競合企業と比較して、購入品費の割合が高いのか、低いのか、同じレベルなのか。目安となる資料として、中小企業実態基本調査( http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/chousa/kihon/index.htm )をご紹介します。この資料には、92業種の「統計表(リンクは最新発表分)」( http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001119762 )があり、従業員数、海外展開の状況といった資料と共に「売上高及び営業費用」の資料がExcelファイルで入手できます。この資料の「直接購買費用」を参照すると、業界ごとに平均的な直接材料費の割合の目安が入手できます。この目安には二つ活用方法があります。一つ目は、サプライヤの直接材料費の割合の目安。もう一つは、自社(バイヤー企業)の直接材料費との対比による問題点の発掘です。製造業といっても、業種によって直接材料費の割合は、20%台から60%台と大きな開きがあります。総コストの20%の責任か、それとも60%を超える責任か、割合によって調達・購買部門の重要性も異なってくるのです。

☆2つの視点が必要な重要性分析
(1)購入価格の大小による分析

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この分析は、構成要素ごとの購入金額をソートし、購入金額の高い順から全体に占める割合を算出してグラフ化します。在庫分析管理手法であるABC分析(重点分析)を、機種ごとの全購入品に対しておこないます。この分析によって1つの購入品の価格が全体コストに占める割合が理解できます。1つの購入品の割合が高い場合は、対象となる購入品へと集中してコスト削減の取り組みを実行します。具体的には、購入品のコスト分析、機能分析をおこないます。購入先であるサプライヤにも加わってもらい活動を推進すると効果的です。サプライヤと自社(バイヤー企業)での総発生費用を対象(母数)とした削減活動をおこないます。1つの購入価格は低くても、サプライヤ単位で見た場合にアイテム数や購入数量が多い場合は、サプライヤからの購入額全体を対象としてコスト削減活動をおこないます。この2つの取り組みによって、カバーされるサプライヤは増加します。サプライヤと共同したコスト削減活動を、一緒に取り組みやすいサプライヤとのみおこなうのでなく、購入価格の観点から必要性と効果によって判断・選別できます。

(2)購入品の機能・役割の重要度分析
この分析は、購入要求部門(設計、品質保証、製造)の協力を得ておこないます。製品の中で、構成部品を役割、機能を分析し製品全体に与える影響度から重要かどうかを決定する取り組みです。役割や機能を定量化し、重要かどうかを決めるのはとても難しい取り組みです。しかし安全性=人命に機能が直接的に影響する製品の場合は、このような見方も必要になります。関連部門との十分な議論を、調達・購買部門主導で実現します。

(つづく)

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