指標はこれを見ろ!(牧野直哉)

●10月発表 日銀短観

今回は、10月1日に発表された日銀短観(全国企業短期経済観測調査、以降「日銀短観」と表記します)を、前回発表分と対比します。過去掲載した同じ指標の記事を掲載する理由は、指標とは発表の都度同じ視点での内容の確認にこそ、大きな価値があると考えるためです。今回は、調査結果を調達購買部門の業務に具体的にどのように生かすかを最後に述べます。

それでは、前回同様に次の6つのポイントを確認します。

(1)短観(概要) 2.需給・在庫・価格判断
(2)短観(概要) 6.雇用
(3)短観(概要) 参考 業況判断の推移
(4)短観(概要) 参考 需給・価格判断の推移
(5)短観(概要) 参考 雇用人員判断
(6)短観(「企業の価格見通し」の概要)

上記6つの資料は、このページからダウンロードできます。

それでは、個別に説明します。

(1)短観(概要) 2.需給・在庫・価格判断

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各項目の色づけは、私が見るべきポイントとして追加しました。この内容から、次のように読み取っています。
(赤部分)需要と供給の状況 ~2014年9月は、引き続き供給超過状態、先行きは現状が継続
(青部分)在庫状況 ~2014年9月は、在庫過大状態が若干拡大
(緑部分)仕入価格判断 ~前回と同じ上昇傾向を示すも、一部に一服感
大企業:上昇との回答は若干減少しているが、先行きは横ばい
中小企業:上昇との回答は若干減少しているが、先行きはさらに上昇見通し

前回結果との対比では同じ状況が継続しています。全体感としては、供給能力に余剰感があり、在庫も若干増加傾向を示している。仕入れ価格は、上昇との回答は若干減少しているものの、引き続き上昇との回答が多い。注目すべきは、中小企業の仕入れ価格判断の先行き部分です。現在よりも状況は悪化すると見通している企業が多いとうかがえます。

大企業と比較して原材料費割合の高い傾向を持つ中小企業が、仕入れ価格の動向を厳しく見ていると判断できます。このような結果になったもう一つの要素があります。為替レートの急激な変動です。

今回発表の日銀短観の調査期間は、8月27日~9月30日でした。8月27日は1ドル¥103~¥104。ここから9月末へ向けて、一気に¥108~¥109円台へと円安が進みます。こういった経済環境の変化が、今回の調査結果に影響をおよぼしているとの仮説が成り立ちます。

業界によっては「企業の供給能力には余裕がある」に疑問を感じられるでしょう。その場合は以下の通り、「業種別計数」を参照してみてください。最近でも大手牛丼チェーンで、24時間営業店舗の縮小が話題になりました。外食産業以外では、建設業界に代表される供給能力よりも需要が明らかに上回っている業界があります。

重要なのは、日本全体とか、業界全体で、需要が同じように拡大する時代は既に終わっている点です。同じ業界であっても、仕事量には違いがあり、地域によっても異なります。自社の置かれた状態を正しく認識するには、以下の詳細部分を見る必要があるのです。

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(2)短観(概要) 6.雇用

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ここでは、赤の部分をチェックします。マイナスであれば人材の過剰感が強くなります。前回に引き続いて、人材の不足感が強く表れています。前回の記事では、人材不足がおよぼす影響の2つの方向性を述べました。引き続き、長期的な視野での人材確保と、人材育成が必要です。

(3)短観(概要) 参考 業況判断の推移

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短観で見るべきポイントの3つめです。業況判断とは、いわゆる「景気」といった言葉で表現される業績の良し悪しを見極めるための指標です。これもDI~ Diffusion Index(ディフュージョン・インデックス)で表記されています。

前回のこのグラフは、消費税駆け込み需要の反動を想定し、総じて「悪い」との評価でした。今回は、消費背駆け込み需要をおりこんで「現状維持」との見通しに転じています。

(4)短観(概要) 参考 需給・価格判断の推移

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この指標は、景況感でなくズバリ需給、加えて仕入れ価格と販売価格の見通しをDIで表しています。10月発表を見ると、引き続き供給過剰状態にあって、仕入れ価格は上昇傾向、販売価格は現状維持との見通しです

(5)短観(概要) 参考 雇用人員判断

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ここでも、先行きの不足感が強く表れています。

(6)短観(「企業の価格見通し」の概要)

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最後に価格見通しです。(この指標は別の資料を参照します)前回と同様に、直近の販売価格のアップには消極的だけれども、仕入れ価格の上昇見通しをもって苦悩する日本企業が読み取れます。

全体的に、前回記事でお伝えした結果と比較しても、人手不足の傾向が増した点以外はさほど大きな変化はありませんでした。今回の結果をもって、どんな判断をするのか。ぜひ皆さんにお考えいただきたいポイントです。

私は、多くの調査結果が前回と変わらない中で、先行きの人手不足感の強まりは、強く危機感を持つべきと考えています。この状態を「日本の人口減少」にのみ根拠を求めるのは間違いです。同時に供給能力の過剰感に悩む企業の姿も浮き彫りになっています。先行きの人手不足を心配しつつ、現時点では供給力の過剰感に悩む。必要な人材と従業員の能力的なミスマッチが原因です。

現在転職マーケットは、調達購買/サプライチェーン領域でも活況を呈しています。企業は事業にマッチした人材を社内で確保できないのです。対応策は、即戦力を社外に求める手段と、社内で育成するとの手段があります。管理者は、従業員教育。担当レベルであれば、みずからのスキルアップをどのように進めるかが、非常に重要な課題だと、今回の日銀短観から再認識しました。

(了)

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