ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

●買わないバイヤーがもつべきスキル

グローバル化へ対応する中で、調達購買部門の仕事も企業の海外進出とともに、変化を余儀なくされます。国内の需要減少による購入量が減少する事態は、国内で働くバイヤーたちから、直接的に仕事の機会を奪います。また、幸いに仕事があっても、従来のバイヤーと面談、打ち合わせをおこなって、見積依頼して、見積入手して、価格交渉して、注文書を発行するといったが、ゼロにはならないまでも減少する可能性が高くなります。これから調達購買部門で生き残るためには、買う行為そのもの以外の部分に目を向ける必要があります。私はこれを「買わないバイヤー」と呼んでいます。今回は「買わないバイヤー」に必要なスキルを考えます。

☆「調達購買」から「サプライチェーン」へと視点を変える

「調達購買」と「サプライチェーン」の定義の違いを考えてみます。ここでは、語彙(ごい)の問題でなく、1点だけ違いを明確にします。調達購買よりもサプライチェーンの方が、カバーする範囲が拡大します。私は次の通りイメージしています。

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左側のイメージは、企業の事業所や工場の調達購買部門で、サプライヤーと一緒に仕事をします。この場合は、調達購買の実務でサプライヤーか、社内関連部門との仕事がメインです。一方、右側では、そういった工場、事業所が2つ以上存在(イメージでは3つです)し、全体を見ているイメージです。

企業の規模や、展開状況によっても異なります。しかし、1つの企業に2つ以上の場所が異なる調達購買部門を持っている場合、あるいはこれから2つ以上になる場合に、業務を見る視点を調達購買部門でサプライヤーをみるポイントから、複数の調達購買部門をみるポイントへと変化させます。すると「買う」行為以外にも、さまざまな業務が存在する事実をご理解頂けるはずです。

そして、次のイメージをご覧になってください。

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同じ企業内で複数の調達購買部門を持つ場合、もっとも困難なのは、それぞれの調達購買部門の企業戦略、調達購買戦略にもとづいた調和です。これは日本国内の複数ある事業所であっても難しい。そして、近年進んでいるとされる日本国内の空洞化によって、複数の調達購買部門の一部は海外に存在する場合を考えてみます。

☆進出形態によって異なる調達購買部門の変化

日本の高い人件費、人口減による総需要の減少により、日本企業の海外進出が加速しています。その動きによって、国内の調達購買部門にも変化が必要です。

高度な技術的で、新興国での実現が難しい場合は、引き続き日本国内での事業継続も可能です。また、減少するとはいえ、現在でも世界第3位の経済大国であり、依然として一定規模の需要は存在します。しかし、過去と同じ業務を将来も継続できる保証はありません。経済変化に呼応した企業戦略の変化に、調達購買部門として対応しなければなりません。

既に海外に拠点が存在する場合は、拠点間の「調和」が大きな課題になります。また、拠点を設けたばかりの段階や、これから新しく拠点を設置する場合は、調達購買機能を作り上げなければなりません。ここで、海外進出時を例に、いったい何をすれば良いかを考えてみます。

☆海外進出先のサポート業務

海外進出先での調達購買部門はどのような機能を持つのでしょうか。IPO機能なのか、顧客への供給機能を持つのか。また、現在の日本の調達購買部門は、どんな影響をうけるのでしょう。企業としての海外進出目的によって、調達購買の機能も影響を受けます。まず、おこなわれる進出によって、どんな目的をもった拠点となるのかを明確にします。その上で、必要や調達購買機能を見極め、進出先における円滑な業務立ち上げのサポートを行ないます。具体的には次の2点です。

(1) 調達購買業務の構築
進出先での調達対象(直接材料か、間接材料か、その両方か)と、生産機能を持つ場合は目標現地調達率によって、調達購買の機能は変わります。進出当初より現地調達率を高く設定する場合は、日本国内のすべての機能を現地で持たなければなりません。非常にハードルが高いと認識しなければなりません。

海外進出の検討段階で、現地の実情を的確に掌握した上での意志決定が必要です。日本企業における「海外であれば何でも安い」との神話は、この段階でも調達購買部門に悪影響をおよぼします。日本国内を同じレベルでの購買を実現するためには、自社および進出先のサプライヤーの双方の調和が必要です。したがって、進出先での円滑な自社内業務サイクル構築と同時に、現地の実情に関しては、日本との情報共有方法の実現を念頭に置いて仕組みを作ります。

(2) 進出先でのバイヤー教育
海外に進出する大きな目的の1つは、現地の安い人件費にあります。調達購買部門のメンバーも現地で雇用しなければなりません。必要なスキルの教育は必須です。

進出時に必要な調達購買部門の機能によって、教育内容は決まります。国による商慣習の違いも考慮しなければなりません。新入社員への教育に加えて、現地の商慣習の調達購買業務への落とし込みの2つが必要です。

この2つ以外にも、さまざまな課題が山積します。私は海外工場における調達購買機能の構築を2度経験しています。最初のケースでは、日本では簡単に手に入る部品の調達が滞り、日本から毎日空輸していました。そのような反省にたって、次のケースでは、現地拠点構築プロジェクトの初期段階から参画して、全体スケジュールをにらみながら、準備作業を進めました。ある段階で、現地調達率の前提を大幅に引き下げ、日本からの部品供給率を大幅に上げました。後から発生する輸送費や混乱によって発生する費用を考え合わせると、トータルでは費用の最小化が実現できるとの見通しによるものです。この判断は、調達購買部門の人間でなければできませんでした。この一連の経験は、私の「買わないバイヤー」の必要性の根底にあるのです。

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