ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
●高度化する顧客要求にこたえる調達購買部門
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激しくなる企業間競争には、調達購買部門へのニーズも、従来のQCDだけでなく、より広く高度な内容に変貌しています。この新たなニーズへの対応も、調達購買部門、そしてバイヤーの生き残りに必要な手段となります。
☆QCD要求の高度化
従来から調達購買部門に求められるQCD(Quality:品質の向上 Cost performance:低コストの実現 Delivery Date:必要な時期に届ける)も、その内容はいっそう難しくなっています。お客様からのより安く、より高品質で、より早くといった基本的なニーズは高まるばかりです。これら基本的なニーズに加えて、近年では、それぞれ要求内容が厳格化し、基本的なQCDに代表されるニーズに応えられれば良いのでなく、要求を達成した根拠や、プロセスの明確化が求められています。
調達購買部門が相手にするサプライヤーも、国内中心であった過去とは異なり、広く海外に広がっています。商習慣も文化的背景も異なる海外サプライヤーからの購入は、従来の管理レベルの維持すら困難にするリスクを内包しています。調達購買業務の対象は広く、その内容は高度化しているのです。
☆やることが増えている!
QCD要求の広がり高度化している部分を具体的に考えてみます。ただ購入するといっても、これまでのQCDの確認だけでなく、構成する原材料や部品のトレーサビリティや、製造プロセスでの環境持続性への配慮、CSR調達の実践を通しての社会への貢献とさまざまな場面が考えられます。そして、このような対応内容の増加は、バイヤー企業だけでは実現できません。サプライヤーにバイヤー企業のニーズを理解してもらい、実際に対応してもらって、バイヤー企業とサプライヤー双方の取り組みの積み重ねでしか実現できません。調達購買部門は、対応に要する管理項目をサプライヤー、サプライチェーン全体のプロセスに展開して、積み重ねをおこなわなければなりません。そして、こういった新たに登場する仕事は、調達購買部門のメンバーや、サプライヤーの頑張りによる力仕事的な対応では継続できません。バイヤー企業とサプライヤーの双方で、それぞれを仕組みに織り込んで実現させなければならないのです。
これまでご説明した内容は、調達購買部門における従来の分類では「サプライヤー管理」に含まれます。しかし、明らかに従来以上の広さと深さを持った内容です。このような管理の実現は、サプライヤーの管理全般をより深くおこなって初めて実現できます。したがって、サプライヤーとの信頼関係は以前にも増して重要になります。おざなりのパートナーシップやサプライヤーミーティングでなく、真の良好なリレーションをサプライヤーと構築しなければ、バイヤー企業だけの力で乗り切れる課題ではないのです。例えば、バイヤー企業とサプライヤーの間で、どちらの対応がより効率的なのか。どのように役割を分担するのかを適切におこなう関係を構築し、顧客からの高度化した要求に応えます。
☆企業ブランドへの貢献
なぜ調達購買部門は、従来にはなかった環境持続性やCSR調達の実践に対応しなければならないのか。これは、もし対応していなくてなんらかの問題が顕在化した場合、企業ブランドを著しく損なう可能性があるためです。昨年の4月にバングラデシュで発生したビル倒壊事故では、発生後すぐに倒壊したビルに入居していた企業名が報道されました。日本でも昨年問題になった食品材料の偽装問題にしても、原材料調達の過程で発生した出来事です。ただ、これは調達購買部門にとって、大きなチャンスでもあります。
調達購買部門にもっとも期待される成果とは、購入品のコスト削減です。しかし、環境持続可能性への貢献や、CSR調達の実践による社会貢献によって、調達購買部門が企業ブランドの維持向上に積極的に関与するのです。これは、コスト削減に負けない調達購買部門が生み出す価値になるのです。
☆調達購買部門での前向きな対処
こういった対応範囲の拡大や管理レベルの高度化は、企業すべてに等しく、かつ難しい課題です。しかし、こういった対応を積極的に日常業務プロセスに取り込んで、顧客ニーズにいち早く応えるのは、企業としての優位性を高めます。そして、後ろ向き対応では実現が難しいのです。例えばトレーサビリティの確認を、なにか問題が顕在化してから後追いで確認するのは、膨大な手間が必要になります。そして、業務プロセスに織り込むのもバイヤー企業側からの一方的なサプライヤーへの押しつけは、良好な両社の関係に傷をつけます。調達購買部門とサプライヤーが一緒に、効率的な対応を協同で実現させ、企業としての優位性を構築し、企業間競争に勝ち抜く源泉としなければならないのです。
<つづく>