ほんとうの調達・購買・資材理論「番外編・グローバル化を正しく考える」(坂口孝則)

現在、「グローバル化」なる言葉を聞かない日はありません。グローバルvsローカルなる対立があるのかはわかりません。ただ、みなさんの問題意識として

「グローバル化は回避できない」
「これからは全世界でビジネスをせねばならない」
「そしてそれに応じて(良くも悪くも)購買組織も変化せねばならない」

といった前提はあるように思います。ここで、番外編としてこのグローバル化と調達組織について考えていこうと思います。

・グローバル化とローカルだけの構図ではない

ところで、さきほど「グローバルvsローカルなる対立があるのかはわかりません」と書きました。もっというと、私はこういう単純な二項対立だけではないと思ってきました。しかし、この単純な構図を超越するフレームワークを考えつきませんでした。

なのでこれ以降は私のオリジナルなものではありません。海外の実務家のあいだで使われている「I-Rフレームワーク」なる分析手法です。

とてもわかり易い資料が無料公開されていますので、ご一読ください。「Multinational Corporations & Regional Strategy」のP34です。

この分析では、

・「グローバル統合への圧力」:付加価値創造において複数の国をまたいで効率性や相乗効果、創発を生み出すために、多国間に存在する共通性を活用

・「ローカル適合への圧力」:付加価値創造において個々の市場に存在する多様な事業機会とリスクに対して、個別市場ごとの特殊性に根ざした解決策を提示

という二つの軸を使います。

そして、さらにここから導かれる4象限について、各名称をつけます。

・トランスナショナル 戦略
・グローバル 戦略
・マルチドメスティック 戦略
・母国複製 戦略

の4つです。これはきわめて抽象的ではあるものの、あまりに示唆に富むのでご紹介しました。

ここで、不思議ですよね。たとえば、「グローバル統合への圧力」が強く「ローカル適合への圧力」が低い<グローバル 戦略>はなんとなくわかります。つまり世界各国に同一品を提供するために、本社が強い力を持って、かつ開発統合や調達統合(場合によっては集中購買?)を遂行するものです。

それにたいして、ややわかりにくいのは、「グローバル統合への圧力」が強く「ローカル適合への圧力」も強い<トランスナショナル 戦略>です。グローバル統合せねばならない。でも、同時にローカル独自の仕様も検討していかねばならない。つまり、本社が強い力を持って、かつ開発統合や調達統合を遂行するんだけれど、かといって同一品を開発するんじゃなく各国に合わせたバラエティ豊かな商品提供を行う。……というわけです。

・この分析からわかること

さきほど抽象的といいましたけれど、こう考えると、いろいろなことが思いつきませんか。グローバル化といっても、いくつかのパターンがあるわけですよね。たとえば、これを調達・購買業務にあてはめるならば。

・トランスナショナル 戦略:ベース機種、ベース製品は、本社主導で調達構造を決定、そしてコスト決定を行う。ただし、各国拠点にも調達部門を置き、各国独自ニーズの発掘と、それに合致したサプライヤ選定を行う

・グローバル 戦略:本社集中での調達を進める。仕様統一などの開発購買業務は本社が主導し、各国はQD(品質・納期)改善に努める

・マルチドメスティック 戦略:完全分散型調達を推進する

まあ、これらは私の考えですけれども。こういうアイディアが出てくるわけです。自分たちの事業の形におうじて調達・購買部門も形を変えるのは当然ではあるものの、あまり的確なフレームワークがありませんでした。参考になれば幸いです。

・グローバル化とはグローバルコンプライアンス化なのか

ところで、このトランスナショナル戦略、グローバル戦略、マルチドメスティック戦略のどれを採用するにしましても、自国のみでの調達は困難です。

必然的に海外サプライヤ(海外EMS)の活用機会が拡大します。ここで、参考になるのがアップルの対応です。アップルは、iPhoneのアッセンブリーを委託しているフォクスコンの労働環境について非難されてきました。あまりに過酷な環境、低賃金、労働時間の長さ……。先日も、従業員の死が報じられました。ゆえに、アップルはサプライヤへのコンプライアンスを重視してきました(してこざるを得ませんでした)。

https://www.apple.com/supplier-responsibility/

上記のサイトがサプライヤレスポンシビリティのページです。

詳しくは、レポートに譲ります。上記の図では、サプライヤが超過労働していないかをチェックしているグラフとしています。

・Educating and Empowering Workers
・Labor and Human Rights
・Health and Safety
・Environment
……と、正直、海外サプライヤについてここまで考える必要があるのかよ、と呆れてしまうくらいの内容になっています。海外展開というのは、調達の役割が大きくなるのですよね。

グローバル化とは、組織戦略を考えると同時に、グローバルコンプライアンス化も指すのだ。これをアップルの例からご紹介しました。繰り返しますと、ぜひアップルのレポートをお読み下さい。

<つづく>

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