ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)

◎2.調達・購買とは/実務担当者の役割

前回まで、調達購買部門における現状を踏まえた将来的な課題をお伝えしました。これまでのお話を前提にして、今号から「調達・購買とは/実務担当者の役割」として、基本的な調達購買担当者、バイヤーの仕事を述べます。

●2-1調達購買のはたらきとは?

調達購買部門は、社内にない資源(リソース)を、社外から確保(購入)する役割を担っています。しかし、同じ「購入」でも、個人の「購入」と企業の「購入」では、プロセスや意志決定方法が異なり、一定のルールが存在します。この「ルール」は、調達購買部門でないと、なかなか正しく理解できません。社内の関連部門であっても、このルールへの理解が浅いとの前提で、さまざまな問題へ対処すると、問題解決がスムーズになります。

☆ 企業の「購入」は、役割分担しておこなわれる

個人では、自分の意志で買うものを決め、代金を支払い「購入」します。一方、企業でおこなわれる「購入」は、「購入するかしないか」との意思決定や、実際に「購入する」までの作業をいくつかの部門で分担しておこないます。

企業で妥当な「購入」を実現するには、少なくとも3つのプロセスが必要です。

① 買うものを決める(購入仕様、スペックの決定)
② 購入するかどうか・購入数量を決める
③ 購入先(サプライヤー)と購入条件(価格、支払方法、納期など)を決める

以上3つのプロセスがすべて実施され、はじめて企業として「購入」できます。調達購買部門は、主に③を担当します。①は主に設計部門に代表される購入を調達購買部門へ要求する部門、②はメーカーであれば生産計画部門が担当しますし、①と同様に購入を要求する部門によって決定される場合もあります。

この「買う」意志決定を分割しておこなうルールによって、独善的な購入や購入にともなう不正行為を抑制する効果があります。各部門が正しく機能して、企業として最適な購買が実現するのです。

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個人の購入は、個人の自由な意志によって実現します。私は先日、パソコンを更新するために、新たに1台購入しました。平均すると毎日数時間は必ず使用する仕事に生活に欠かせないツールです。パソコンの稼働時間から判断して、2年ごとに新しいパソコンを購入しています。今回購入したパソコンは、過去4回と同じPanasonicのLet’s noteです。選定した理由は、

1)キーボードのタッチ感
2)バッテリーの稼働時間(今回購入モデルはバッテリー稼働24時間!)
3)堅牢性(丈夫!)
4)重さ(軽い!)
5)これまでの使用で得た信頼性

の5つです。問題点は価格です。CPUとかメモリ、ハードディスクの容量から判断すれば、他のメーカー製の製品でもっと安いパソコンは多数ありました。しかし、上記1)~5)の私自身のこだわりによって選定しました。この買い物は、自分のみが使用し、自ら支払うので、妥当性を自分のみが判断すれば良いのです。

同じパソコンでも、勤務先での購入は違います。以前の勤務先では、毎年更新対処のパソコンの台数と、必要仕様を国内大手メーカーに提示して入札によって購入していました。現在の勤務先では、グローバル契約で米国メーカー製のパソコンを使用しています。要求仕様はあるものの、価格が大きな選定要素になります。前述した5つの私のこだわりは考慮されません。個人のこだわりよりも、企業としての妥当性、予算や基本的な仕様が優先されます。調達購買部門では、予算や購入仕様には、基本的に介入できません。提示された条件に合致するサプライヤーの選定と購入価格の決定が主な仕事になるのです。そして関連部門から提示された条件、仕様や、品質、納期が確保されるかどうかを確認します。個人と比較すると、調達購買部門で決められる買う為に必要な要素が限定されているのです。

☆ 調達・購買部門は、購入品の確保と、QCD妥当性の確保が任務

調達購買部門では、購入品にQ:品質、C:コスト、D:納期の3点について要求内容との整合性を確保しなければなりません。サプライヤーに要求した品質通りに、お客様が満足する適切な価格で、納期を順守するために必要なタイミングで購入しなければなりません。

調達購買部門は、社外のサプライヤーへの対応が主な業務と思われがちです。しかし、企業では、「購入」までに、様々な部門が役割を分担し関わっています。したがって、「購入」の一連の流れが円滑に進むために、サプライヤーと購入に関わる社内の各部門との間の調整役としての役割も重要です。

調達購買業務の悩ましさとは、自ら主体的には決定していない仕様や納期の確保も、主体的におこなわなければならない部分です。詳細な仕様は、バイヤーの手に負えない程に、高度な技術的内容を含んでいる場合もあります。そんな場面でどのように対処するかも、調達購買部門やバイヤーにとっては重要な課題です。最終的に価格の妥当性を判断する際には理解しなければなりません。したがって、調達購買部門のバイヤーは、自分が決めていない内容であっても、理解して価格との関連性を判断しなければならないのです。

☆ 調達購買部門が直面している問題

個人の購入との違いはもう1つあります。調達購買部門は、一度購入が決定されたら「購入しない」との選択ができません。例えば、先ほどの私のパソコンのケースでは、これまで使用していたパソコンを引き続き使用するとの選択肢もありました。このタイミングは「購入しない」との選択肢もあったのです。しかし、企業では、受注内容である契約内容に必要なアイテムは、QCDを確保して購入しなければなりません。そのような基本的な業務に加えて、近年では大きな環境変化への対応を強いられています。大きな変化の例として、これまでにもお伝えしている次の3つの事象が挙げられます。

① グローバリゼーション
② 国内産業の空洞化
③ 企業の社会的責任への貢献

これらの大きな環境変化は、調達購買部門の仕事にも大きな影響を与えています。国内のサプライヤーから海外のサプライヤーへと購入元が広がったり、従来の「購入」だけでなく、海外サプライヤーや、海外子会社への指導・教育だったり、調達購買のシステム構築支援であったり、業務内容が、多様化、複雑化しています。また、企業の社会的責任重視は、サプライヤーにこれまでにない高度な管理レベルの実現要求を強いるケースも出ています。調達購買部門は、そのような大きな変化に対応しつつ、同時にコストダウンも実現させなければならない難しさがあります。変化への対処は困難な道ですが、困難さから逃げられません。困難であるからこそ、積極的な取り組みを行い、変化へ対応し続ける事が、今、調達購買部門に期待されているのです。

(つづく)

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