ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

・サプライヤーの適正利益の話をしよう

今回は、サプライヤーに与える適正利益の話をしたい。

「オタクは儲けすぎだろう」
「いや、ギリギリです」

こんな牧歌的な会話がある(笑)。「儲けすぎ」=「値引かなければいけない」わけではないのに、どこか、「儲けすぎ」=「悪」のイメージが定着している。ただ、ほとんどのバイヤーは「適正な利益を確保させること」に異論を持っていない。では、その適正な利益とはいったいいくらくらいなのだろうか。

ここで、損益計算書のおさらいから入ろう。

<図をクリックすると大きくすることもできます>

もういまさら……だろうか。とはいえ、ここで確認しておくと、

(1)売上高から製品にかかる費用を引いたもの……「売上総利益(粗利益)」と呼ぶ
(2)そこから会社全体に共通してかかる費用を引いたもの……「営業利益」と呼ぶ
(3)さらにそこからそれ以外にかかる費用を引いたもの……「経常利益」「税金等調整前当期純利益」と呼ぶ

5個の利益、4個の費用、3個の収益が存在することになる。よく、調達・購買部門のひとたちが、「サプライヤーの収益改善」といっていて、中身を聞くと「利益改善」であることが多い。これは、「収益」と「利益」が別物であることを知らないからだ。「収益改善」と呼んでしまうと、それは「サプライヤーの売上高アップ」の意味に近くなる。

ところで、「原価」「コスト」「費用」も概念的には異なるし、かなり間違った使い方も散見されるが、それは別の機会に譲ろう。

ここで、一つの見方が提示される。もちろん、損益計算書とはややこしい仕組みもあるし、それに抜け穴もたくさんある。でも、サプライヤーの損益計算書を一つの基準とすると、そのサプライヤーから調達する製品の利益率の評価ができる。

要するに、そのサプライヤーの粗利益率が10%なのに、自分たちに販売する製品の粗利益率が20%であれば、「そりゃ高いだろう」という話だ。この場合は、サプライヤーの損益計算書を見ればいい。上場企業の場合は、EDINETが使えるし、非上場企業の場合は、サプライヤーから直接入手したり帝国データバンクのような調査機関から入手したりする。

ただ、それはあくまでも、一つの企業での話だ。業界平均値を知ることはできないだろうか。ここで、財務省のページが参考になる。

・サプライヤーの利益実態を調べよう

私が使っているブラウザのGoogleChromeや、Firefoxでは使用できないものの、インターネットエクスプローラーから回覧できる(政府はなんで前二つのブラウザに対応させないのだろう)。

サイトは「法人企業統計」である。

ここの下の方に、「時系列データ検索メニュー」というところがある。

ここから、このメールマガジン読者の場合は「金融業、保険業以外の業種」を選択しよう。

さらに、何でもいいのだけれど、

(1) 調査項目→列1に「売上高(当期末)」、列2には「売上原価(当期末)」
(2) 業種→列1に「製造業」、列2にも「製造業」
(3) 規模→列1に「1億円未満」、列2にも「1億円未満」

と入力してみよう。そして、下の「検索」を押し、「保存」だ。すると、csvファイルがダウンロードできる(もしエラーメッセージが出ても気にせずダウンロードしよう)。

<図をクリックすると大きくすることもできます>

これで、製造業の資本金「1億円未満」の状況を知ることができる。基本的に、多くの調達・購買部門では、製品のコスト(材料費・加工費・製造経費)をサプライヤーに提出させ、それに一定率を掛けあわせる計算をしているだろう。したがって、それは「売上総利益(粗利益)」と近似できる。

ここで計算をしてみよう。といっても、エクセルで=「1-(売上原価÷売上高)」とするだけだ。ちなみに、この値は製造業の合算で、単位:百万円となっている。

<図をクリックすると大きくすることもできます>

ここで、一つの驚きがある。よく調達・購買担当者は、査定見積書では、「5%」とかあるいは「10%」程度の利益しか与えていないことになっている。しかし、資本金が1億円未満のサプライヤー(正確にはサプライヤーは同時にバイヤー企業でもあるけれど)を見ても、20%程度の売上総利益(粗利益)を確保していることになる。

30%ほどの粗利益を確保しないとサプライヤーの企業運営は難しい。だから、この20%は高いわけではなく、むしろ低い方である。少なくとも私はそう評価する。

ここから、さらに面白いことがわかる。それはこのメールマガジンで以前連載した「見積りのウソの見つけ方」にもつながり、話は深いところまで向かってゆく。それは次回に。

<つづく>

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