表と裏の関係(牧野直哉)

引き続きイタリアから。

この週末は、田舎町からミラノに宿を移しました。私は海外出張ではほとんど観光をしません。しかし今回は半月以上滞在しています。ミラノには一時間ほどの場所なので、今回はドォゥモくらい見ようかなと思ったのです。あと、イタリア料理には食傷気味で、日本食にありつきたいなんて思いもありました。

ホテルに最寄りの日本料理屋での話。

よくよく考えれば、こちらへ到着して10日以上、毎日がホテルと現地オフィスの往復だった私は、ほとんど現金の支払いをしていなかったのです。久々の日本料理を堪能して会計の際、レジでこんな話をしました。

レシートを見てみると、消費税が一切明記されていません。イタリアでは、食事には10%、アルコールやその他の買い物は21%の消費税が内税で付加されているとのこと。一万円の品を買い物すると、もれなく¥12,100.-となるわけですね。なので、税金を払わなければもれなく20%引となるので、広く脱税が横行しているとのこと。そういった表に出ない経済活動を含めると、イタリアは裕福な国だとのことでした。

日本でも裏経済とか、地下経済なんて表現されますね。Wikipediaにはこんな風に解説されています。

政府などが把握し切れていない経済活動を指す言葉で、さまざまな分野がある。

・薬物取引
・売春
・武器密売
・贈収賄
・人身売買
・マネーロンダリング
・把握しきれない所得
・非正規労働
・不正コピーブランドの売買
・闇為替市場
・盗品売買 (自動車やカーナビなど)

これらの経済活動は違法性を含む場合も有り、当局の取締りを逃れているため正確な把握が困難である。統計当局の立場から見れば地下にもぐって見えないと同時に社会的暗部を秘めているため、地下(アンダーグラウンド)という語が当てられた。
統計に表れないとはいえ、「地上の経済」とは密接なつながりを持っているため、相互に影響しあっている。その規模は経済政策などにも影響を与えるため推測が各国で行われている。

推測がおこなわれている?!統計とかあるのかなと思ったら、ありました。OECDにはこんな資料があります。

なるほど、イタリアの地下経済の規模は22.3%にもなります。この資料の本文には、算出方法が詳しく記載されています。同じ資料から日本の数字も拾って、発表されているGDPとの比較をおこなってみます。次の表をご覧ください。

おおざっぱにいえば、イタリアの人口は日本の約半分です。それでいて地下経済の規模は日本のそれを上回っているわけですから、先ほどの日本料理屋での話も信憑性が高いかもしれません。それだけ腹黒い国民ということでしょうか(笑)。来週からの私の立ち振る舞いも少し考えないといけないかもしれません(冗談です)。

地下経済なんて、もともとその統計のベースとなる数値の信頼性も疑わしいものです。なので、この数字をここ数週間滞在したイタリアの工場と、自社の工場との違いと一緒に考えてみます。

私はある不具合問題でこの地に来ています。製造工程における不具合の原因を、サプライヤーの品質部門、製造部門の担当者とともに明らかにすることが目的です。そして、改善策を決定し、実行させる。しかるべき期間が経過した後、その定着度合いを確認するつもりです。しかし、最初の原因究明で大きくつまずいています。

不具合が発生しただろうと想定する工程には、作業員A,BそしてCと三人います。そして各自工程での作業方法が微妙に異なります。私からみても不完全な作業手順書は存在します。その手順書とも異なります。確かな原因究明には、不具合を起こした方法を再現して、ここの動作に潜む不具合へとつながる部分を明らかにする必要があります。しかし、それが人によって異なってしまうわけです。

そしてどの工程にも総じていえる問題、歩留まりへの関心の低さです。なかなか確固たる原因がつかめない中で、原因追及に試行錯誤を重ねています。そんな中で、ある部品の消費量を確認する必要がでてきました。安価な部品で、一定量をまとめて購入しているものです。しかし、この購入量すらはっきりしない。数個単位での違いじゃないんです。数千個単位でどんな頻度で買っているかがわからない。私が買っている製品に直接使用した分だけ計上される部品ではありません。その工場で使用されるすべての製品に広く薄く計上される部品です。その数千個単位での消費量がわからないのです。

それ以外にも、厳密に使用量を管理すべき材料でも同じです。出荷量と購入量からはじき出した使用量、そして求められる歩留まりの説明がつかない。説明がつかないとは、投入材料に対するアウトプットが低いかなと判断できるのです。これは、今回の訪問の趣旨とは異なるので、こちらでもあまり多くを述べてはいません。でも、購入コストを勤務先の入り口で見ている私には非常に気になる話です。

そして今回の訪問先について、私は確かな財務データを持っています。国によって財務諸表といわれているものは微妙に異なる部分があります。しかし、私が現場で確認したような歩留まりの問題は、財務諸表から読み取ることはできません。私の経験から判断しても財務諸表上は妥当性のあるレベルです。この差は何を意味するのだろう、私はずっと考えています。そこで聞いた地下経済の話。ひろく市民に脱税行為が広まっているとします。企業の会計の中にもそういった行為が含まれている可能性はありますね。ただ私は1社しか見ていないので、これで総じてイタリアはと語るのは危険です。もしかすると、日本でも同じような事態に遭遇するかもしれないし。ただ、表と裏は絶対につながってますよね。そのつながりを断ち切っているからこそ、裏経済となるわけです。

バイヤーがサプライヤーに深く入り込むと、脱法行為を目にすることもあるかも……そんなことを考えながら、イタリアでの日々を過ごしています。

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