バイヤーに求められる能力の本音と建前(牧野直哉)
一週間ほど前から、勤務先のトラブルで海外に来ています。久々に「帰国日未定」の出張です。
ある不具合が露見しました。その不具合の原因が現在訪問しているサプライヤーにあるとされたのです。日本人特有「事件は現場で起きている」感覚で、とりあえず露見した翌日に文字通り飛んできたというわけです。
最近の私が執筆する「ほんとうの調達・購買・資材理論」では、
● 品質
● 物流
といった、調達・購買とは少し異なる分野に、調達・購買担当者としてどのような視点を持つべきかをテーマにしています。幸いな事に、今回の急な海外出張では、そんなテーマが現在進行形で自分自身に一番役立っています。不具合対応であるが故に、品質へのアプローチ、代替品生産のために生産管理と、サブサプライヤーの能力管理、そして日本への輸送に際しては物流のノウハウを活用しているのです。
日本の法人数に含まれる中小・零細企業の割合は99.8%といわれています。就業人口ベースでは、約94%が中小企業に勤務しています。しかし、調達・購買をテーマにしている本は、その多くは大企業の調達・購買のオペレーションを前提とした話です。そして、そんな大企業といわれる集団の中でも明らかな違いが存在します。一時期「トヨタに学べ」的な文献が世に多く出されました。ところが、世の中の99%の法人にとって、トヨタのまねはできません。調達・購買の分野など、とくにトヨタと同じ方法をそのまま採用することはできません。理由は、トヨタほどの購入量をもたないからです。すべて手法やノウハウを採用できないとはいいません。しかし、調達・購買分野で、購入規模を超越するバイヤーの力ってあるでしょうか。私はいまだそんな「力」を見つけるにいたっていません。
安く買うにはどうしたら良いのか。発注機会ごとの発注量を増やせば、おのずと価格は下がります。VEやVAといった機能対比での価値分析といった手法も重要ですが、VE/VAをおこなったから必ず価格が下がるというものでもありません。私はこういった分析手法を意味がないといっているのではありません。これら分析手法は、バイヤーに求められる安価に買うこととは直線的には結びつけづらいと考えているのです。それよりも、会社としてどれくらいの量を購入できるかの方が、はるかにサプライヤーにとっての魅力になり、バイヤーが有利に商談を進められる要因となるはずです。バイヤーに求められる能力は、じつは所属する企業の購買力で決まる部分が大きいわけです。この点を特に大企業にお勤めのバイヤーの皆さんは、心にとめた方が良いですね。いうなれば、会社名を外したときに自分に何ができるのか。ほんとうに安く買うためにはどうしたらよいのか。
安く買うためにはどうしたらよいのか。建前では購入する財の製品知識なんていわれますね。構成される材料価格を決定する市況を読む能力も必要です。しかし我々は競争のまっただ中にいます。製品知識や、市況を読む(予想ではありません、今どんな状態なのかが読めれば良い)だけでは、その他大勢のバイヤーと比べても比較優位を見いだせませんよね。では、VEやVAといった機能対比の価値分析の手法でしょうか。私は、VE/VAもコストの妥当性を計る際には有効な方法だと思います。しかし、分析結果が安く買うことに直結するかといえば疑問です。
私は安く購入するために役立つほんとうのノウハウを探しています。現実に所属する企業の規模、そして購入量で価格が決まってしまうのであれば、バイヤーはどこかほかで、存在意義を見いださなければならない。そんな問題意識から、とても単純ですが物流や、品質に関するバイヤーにとってのノウハウを模索するにいたったのです。
今回の急な出張では、残念ながら安く買うことができていません。問題を解決するために活用しているわけですからね。巡り巡って、これから発生する費用の最小化には貢献できるかもしれません。ただ予定していない費用発生を抑えるという部分では、バイヤーとしての本分を外れていないともいえますね。
物流にしろ、品質にしろ、根底にあるテーマは、バイヤーとして、調達購買に携わる人間として、どう生き残っていくかです。日本で調達・購買に携わる人間として、一人でも多くの方に生き残ってほしい。生き残るだけでなくて、ぜひ面白おかしい人生を送ってほしいと願っています。じつは、この有料マガジンを立ち上げる際に、日本全国の潜在的な読者層がどの程度なのかを試算して見ました。超概算ですが、次の通りです。
日本の就業者人口:約6000万人・・・①
製造業の割合:約4割・・・②
①×②=2400万人・・・③
製造業調達・購買部門の構成人員比率:約2%・・・④
③×④=48万人・・・⑤ ←日本製造業で調達・購買に携わる人
⑤×1%=4800人 :日本製造業におけるトップ1%のバイヤー
「日本製造業におけるトップ1%のバイヤー」が、本有料マガジン執筆者の考える想定読者です。本有料マガジンで得られるノウハウの実践があれば、空洞化の進む日本製造業のなかにあっても決して仕事にあぶれ、さまよい歩くこともないとの想いから設定した潜在読者数です。実際、この読者数に達したら読者の新規募集をとめます。限られた読者の皆さんとのみ共有できればいいのです。中国に抜かれたとはいえ、いまだ世界第三位のGDP規模を誇る経済です。4800名のバイヤーは生き残れるのではないか。そのためには「安く買う」といわれるバイヤーの責務を「建前」として、「本音」で実際に業績に貢献する必要があるのではないか。「本音」の部分が、ほんとうのバイヤーとしての優劣を決めるのではないかと考えるのです。