ほんとうの調達・購買・資材理論(坂口孝則)

「工場見学の方法」

・工場見学の理由は何か?

工場見学に行くバイヤーがいる。なぜだろう、と私は思う。彼らは口を揃えて「工程を見るためです」という。なるほど、それは正しいのだろう。どんなバイヤーだって、工程を知らずに設計者と話すことはできない。

そして、こう言う。「コストを下げるためです」と。どうやってコストを下げるつもりなのだろう。そういうことを訊いたときに、必ず返ってくる言葉は「工程のムダとか、見積りとの差を指摘するんです」というものだった。

なるほど、それもあるかもしれない。でも、バイヤーはそれほどサプライヤーの工場の工程に詳しいのだろうか。工場長やライン長が毎日のように改善しようと試みているラインを、バイヤーが一日行っただけで改善できるというようなことがあるだろうか。

皮肉が過ぎたかもしれない。しかし、工程の絶対的な良さがわからなければどうなるだろう。「ちょっと効率が悪いかもしれませんが、業界ではトップクラスです(=だから価格は妥当です)」と言われたらどのように反論すれば良いのだろうか。

この連載では、工場見学をいかに数量的に、かつ容易にデータ収集するかを目的としている。バイヤーにはもしかすると、生産管理部員や品質管理部員ほどの知識は不要かもしれない。もっと、バイヤーゆえに見るべき観点があるのではないか。しかも、はじめて見たサプライヤー工場でも、他と比較できるほどの簡便さで。そのような自分自身の願望から実践していた方法を披瀝する。

しかし、まずは、話を理解してもらうために、サプライヤー工場の役割から始めていきたい。

サプライヤーの工場とは何を役割としているのか。それは簡単にいうと、付加価値を最大化するためである。さまざまな意見はあるだろう。しかし、工場も企業体の一部である以上は、価値を最大化するのである。

では、付加価値とはなんだろうか。スループットなどの類似表現もあるが、ここでは付加価値と呼んでおこう。付加価値とは、価格から変動費(主に材料費)を差し引いたものである。

<図をクリックいただくと大きくすることもできます>

こうやって整理してみよう。工場は、付加価値を最大化することを役割とするといった。売上が営業部門である。逆に、調達・購買部門は材料費を最小化しようとするのである。

高く売れるように営業部門は頑張り、材料費を調達・購買部門が下げる。そうすると、付加価値は高まる。ここで誤解してはいけないのが、付加価値とは営業部門と調達・購買部門の結果として自動的に求められるものではないことだ。材料費が低くなっても、工場が良い品質のものを生産できなければ、営業部門は高く売ることができない。もちろん、工場が不良ばかり出せば、調達・購買部門が頑張っても材料費は高くなっていくだろう。そのように有機的につながっている。

このように各役割を持って、自部門の責任をまっとうしようとするのである。

工程の付加価値分析

さて、ではその付加価値をどのように見ればよいか。ここで私がお勧めしたいのが、工程の加工時間調査である。各工程の加工時間を調査するとは古臭く、しかもこれまでとさほど変わらない手法だと思われただろうか。ちょっと聞いてほしい。私が勧めるものは、このようなものだ。

<図をクリックいただくと大きくすることもできます>

ストップウォッチを持てだとか、QC7つ道具を用意せよ、だとかVA/VEだということは言っていない。どんなバイヤーであっても(たとえ若手であっても)、誰もができる手段を紹介している。しかも定量的なものだ。

さて、この作成手順を書いてみよう。

1.縦線に「時間」と。横線に「工程」を記載する
2.工場見学に行けば、きっと工場の担当者にいろいろ訊けるだろうから、工程数を尋ねて分解する(この場合は5工程)
3.それぞれの工程でどれくらいの時間がかかっているかを調査する。

これだけである。ほら、誰でもできそうではないか。入社まもなくのバイヤーにもできるはずだ。そうすると、いくつかのことに気づく。

1.各工程にかかっている時間は均一ではない
2.3工程目はもっとも時間がかかっている
3.4工程目は逆に、時間が短い。

ここで、ロープを持った5人の子どもたちを想像してもらいたい。そして、その子どもたちはどこかでハイキングをしている。これは、DBR(ドラムバッファーロープ)として有名な考え方でもある。ロープを持たない子どもたちであれば、バラバラに歩き出すだろう。そして、歩くのが速い男の子がいて、歩くのが遅い男の子もいる。歩くのが速い子どもだけを見れば、その速さをもっと上げたくなる。遅い子どもを無視して、速い子供の優位性ばかりが目につく。

しかし、これはハイキングなのだ。すべての子どもたちが一緒にハイキングの終了地点までたどり着かなければ、そのハイキングは終わらない。そこで、子どもたちにロープを持たせて歩いてもらう。すると、歩く速度が速い子どもは、先に行きたくなる。しかし、ロープを握っている以上、最も速度が遅い子どものスピードに依存してしまう。

これを、さきほどの工程にあてはめてみよう。4工程目は、歩く速度の速い子どもである。だから、次々に工程処理をこなすことができる。そして、3工程は歩く速度が遅い子どもだ。4工程目はロープを引っ張ろうとするが、3工程目の速度が変わらない限り、全体の速度が上がることはない。

バイヤーが工場見学に行ったときに、まずこの工程による時間差異を見つけなければいけない。すると、これまで見えなかったことが見えてくる。たとえば、速い工程に注目し、それをさらに生産性(やスピード)をあげても、工場全体の生産性は向上しないことに気づくだろう。それは、遅い工程の改善を伴っていないからである。

逆に、テトリスのブロックのように、前述の図を書き上げれば、まず最初に3工程を改善するべきだと気づくだろう。ロープを握っている子どものように、歩く速度が遅い工程を改善しなければ、意味がないからである。

そこで、改善の観点として二つのものが導かれる。

1.3工程目のスピードをあげる
2.4工程目と3工程目の作業を統合する

1.は当然ながら、ときに失念される。3工程がもっとも遅い。これをボトルネック工程と呼ぶことがある。そのボトルネック工程の処理速度をあげれば良い、という事実をまず心しておかねばならない。ときに、ボトルネック工程なのに、長い休憩をとっている工場がある。極端に言えば、ボトルネック工程は昼休みも関係なく、ずっと生産(処理)を続けるべきだ。それが全体の生産性に寄与するからである。

そして、2.は工程の統合だ。4工程目の時間が余っているのであれば、3工程目を手伝う、あるいは作業を前倒しすることによって3工程目の短縮を図らねばならない。もしかすると、結果として4工程目が現状よりも長くなってしまう可能性はある。ただし、その場合であっても、3工程というボトルネックを改善することができれば、全体の生産性は向上する。

さらにこの次はどうするか。バイヤーとして、重要なのはやはりコストの問題だ。では、次回はこのような工程を持っている工場をどのように評価していくかを説明していこう。

無料で最強の調達・購買教材を提供していますのでご覧ください

あわせて読みたい