ほんとうの調達・購買・資材理論(牧野直哉)
サプライヤーマネジメント原論 5~関係断絶理論
前回の簡単なおさらいをします。
・ サプライヤーから購入するモノ・サービスを、自社の販売しているモノ・サービスのライフサイクルに合わせ分類する
・ 導入、盛況、成熟、衰退の、それぞれのライフサイクルの購入額の大小によってサプライヤーを峻別し、関係を断絶するサプライヤーを選定する
・ ベストな断絶方法は、自然消滅である
そして、これまでの4回は、すべて自社であるバイヤー企業側からどのように関係を断絶するサプライヤーを選定し実行していくのかについてでした。関係を断ち切るというアクションでは、もうひとつの側面があります。それは、バイヤー企業側の意思でない、サプライヤーの意思による関係断絶です。ここでは、バイヤーの意図しないサプライヤーとの関係断絶について、次の4つのケースを想定します。
1. サプライヤーが、バイヤー企業からのみ撤退
2. サプライヤーが、事業から撤退する
3. 廃業
4. 倒産
基本的には、上記のいずれのケースでも、早い情報入手は不可欠です。ですが、バイヤーにとって都合の悪い情報ほど、なかなか入手しづらいのが現実です。
なぜ早い情報入手が必要なのか。これは、バイヤー企業側にとって事業運営に不可欠なリソースの確保ができなくなる事態を回避する為に他なりません。バイヤーの責務は、リソースの確保=納入の継続です。このような情報入手に手間取る状態とは、既に納入継続に黄色信号が灯っていることになります。そのような忌むべき事態を、再び正常な状態へと回復させるためには、何よりもまず情報の早期入手、そして正しい状況分析が欠かせません。それでは、それぞれのケースを見てゆきます。
まず1の「バイヤー企業からのみ撤退」です。
これは、サプライヤーが営む事業は、情報を入手した段階でも、そして将来的にも継続します。あるバイヤー企業、顧客からのみの撤退を想定しています。
このような事態が起こる理由を考えてみます。
(1) サプライヤー側の損益
(2) 取引条件
(3) サプライヤーのリソース
(4) サプライヤーのマインド ①実務レベル
(5) サプライヤーのマインド ②マネジメントレベル
上記の5つは、理由として一つだけという内容ではありません。最低でも2つ以上の理由が複合して、バイヤー企業からの撤退との方針が行われます。損益が悪い→サプライヤー側の担当者、もしくはマネジメントのマインドが、バイヤー企業側から離れる、といったのが典型的なものです。
このケースで、バイヤーがまず起こすべきアクションは、撤退を明言したサプライヤーとのビジネス継続の可能性の模索・確認です。なぜ、サプライヤーが撤退を申し入れるに至ったのか、についてその真意を確認するのです。真意の確認とは、バイヤーとして撤退へ至る理由を明確にすることです。そして、その明確になった理由を、取り去ることができるかどうか。
この状態は、サプライヤーに開き直られたということです。サプライヤーといえども、結局そのオペレーションをするのは人間です。開き直った人間は強くなります。サプライヤーとして既にある一定のビジネスを無くしても良いと決定しているわけです。
理由を取り去る……多くの場合、その解決策は価格面での条件改善しかないはずです。要は値上げです。こうなると、買わないという選択肢をもたないバイヤーは弱くなります。
この有料マガジンを購読する用意周到なバイヤーの皆さんは、個々の調達品・サービスについて、それぞれ代替サプライヤー、いわゆるセカンドソースの設定を行っておられるかもしれません。あるサプライヤーから撤退を持ちかけられて、涼しい顔で「いいですよ」と笑って言えるのが理想のバイヤーです。しかし、いかがでしょうか。そのようなセカンドソースの設定を突き詰めてやっているかどうか。そのような選択肢を持たない場合のバイヤーの価値を考えるとき、早急なリソースの確保がどれだけ重要であるかをご理解頂けるはずです。
代替えのサプライヤーを持たない場合には、短期的には値上げという日本のバイヤーにとっては禁じ手でもある手段を用いて、リソースの欠如を回避するしかありません。中・長期的には代替えサプライヤーを見いだすことがポイントになります。(どのように新規サプライヤーを見いだすのかについては、バックナンバーをご参照ください)そして、バイヤーとしてやらなければいけないこと、それはこのような事態に陥らない予防措置です。サプライヤーとの良好なリレーションの確立、同時進行で進める代替え手段の確保、よりよいサプライヤーの開拓は、サプライヤーからの撤退申し入れに対し最大の防御となるのです。(サプライヤーとの良好なリレーション構築の一手段として、バックナンバーの「VOS(ボイスオブサプライヤー)」をご参照ください)
次に、サプライヤーの事業撤退・廃業です。
このケースでは、自社のみならず同様の製品を供給しているすべての顧客が対象になります。長期的な対応に関しては、先に挙げたケースと同じです。短期的な対応は異なってきます。
このような申し入れを行う場合は、同時にラストバイの条件提示が行われているはずです。先のケースにおいては、真意を確認するというプロセスを設定しました。今回のケースでは、ラストバイの条件提示が行われた場合に、バイヤーの調整を行う相手は、自社内になります。そして、ここで前号まで述べてきた、購入品が自社製品のどのライフサイクルにポジションしているかを活用します。
成熟、衰退局面であれば、製品の生涯需要量を算出する。その上で、生涯需要量の総数を決定し、購入をどのように行うかをサプライヤーと調整する必要があります。導入、盛況局面であれば、代替えサプライヤーの設定は必須です。代替えサプライヤー設定のため時間に必要な製品を確保するために、マスタースケジュールが必要となります。代替えを設定する期間に必要な数量のみをラストバイの必要数量として要求します。
このケースでの注意点は、事業撤退・廃業するにもかかわらず、消えかかった蝋燭が最後に炎を大きくするがごとく、撤退先の生産量が拡大します。時として、生産量の拡大によって要求納期を守れない場合が想定されます。サプライヤーが撤退して、さらに納期トラブルを発生させない様、ラストバイの数量を早急に見いだし、サプライヤーへ連絡して諸条件のコミットをする必要があるわけです。
事業撤退に関しては、サプライヤーとのリレーションが良好な場合でも起こりうる話です。リレーションが良好な場合は、ラストバイ条件の調整で、自社に有利な設定を行うことができます。しかし、ラストバイの要求数量の連絡に手間取った時、そしてリレーションが上手に構築できていない場合は、希望通りの数量、納期が確保できない場合をも想定しなければなりません。これも、サプライヤー事業撤退による自社事業への影響を最小限へ食い止めるために、まずはスピード感が重要となることを忘れてはなりません。
最後に倒産です。
この有料マガジンの「VOS(ボイスオブサプライヤー)」でも明記したとおり、サプライヤーが自社の存続の危機をもっとも隠したい相手が顧客である我々バイヤーです。ここで、サプライヤーマネジメントを語るこれまでの文献においては、次のような事が述べられています。
・ 決算情報を入手して、財務状況を注視する
・ 定期的なサプライヤー訪問で、稼働状況をチェックする
サプライヤーが、株式市場いずれかへ上場を果たしている場合には、決算状況から判断することも可能でしょう。しかし、総法人数の実に99.8%を占めるのは未上場企業です。上場していない企業から顧客へ提示される決算報告書への正確性には大きな疑問があります。大手企業の倒産においても「簿外債務」といった報道が行われる場合もあります。そのような場合、決算情報を入手し、分析を行ったとしても、事前に存続の危機を予見することは不可能です。それほど、倒産予測とは難しいものなのです。
では、どうするのか。
倒産対応は、事後対応=起こってから対処すると割り切ることが重要なのです。
<次回へつづく>